[経済短評]日本をeducateする ver.2011

bf4f8cbd8a29908b860ac0c707167ecc「地獄をくぐり抜けてきた」戦う社長、ウッドフォード氏の帰還(gooニュース・JAPANなニュース) – goo ニュース
Fired Olympus CEO Confronts Colleagues Who Ousted Him (VOA.com)
ウッドフォード元社長が日本人だったらオリンパスの損失隠しは発覚しただろうか(ダイアモンド・オンライン)

かつて、といってもほんの4年前ですが、「日本に資本主義をeducateする」という「目的」で、スティール・パートナーズのウォーレン・リヒテンシュタイン代表が日本のあらゆる会社の株式を買い漁りに来ました。その多くが会社の名目価値以上の隠れた資産があると見ていたところです。しかしサブプライム問題とリーマン・ショックにより株価が暴落すると、スティール・パートナーズは過去の遺物となりました。

リヒテンシュタイン代表と比べると、マイケル・ウッドフォード氏はもっと長い期間日本の会社オリンパスで勤め、日本の会社のこと、日本そのものをよく知ったイギリス人だったといえるでしょう。そのウッドフォード氏は、ある意味知りすぎていた男でした。それゆえ、ウッドフォード氏が社長に就任してすぐ、日本の雑誌「ファクタ」の中に、オリンパスが不可解なM&Aとそれに伴うコミッション料の支払いをしていたという記事があることに気づきました。その問題を追求したところ、ウッドフォード氏がオリンパスの日本人取締役により解任されるきっかけとなりました。その日、ウッドフォード氏は携帯を取り上げられ、運転手付きの車にも乗れず、バスに乗って羽田空港へ向かったという、日本からの脱出に必死になったことを自ら語っています。

それから約6週間後、ジョン・グリシャムの映画の主人公のような生活を送ってきたウッドフォード氏は(自分だったらグリシャムにこの話を売るんだけどなあ)、オリンパスの取締役会に出るため、東京に帰って来ました。そして11月25日の午後、「思っていたほど張り詰めた雰囲気ではなかった」取締役会を終えて、外国人記者クラブで記者会見を開きました。その模様はユーストリームや、主に日本及びアジアをカバーする外国人記者が実況ツイートしていました。

その中でウッドフォード氏はもちろんオリンパスのことも多く語っていますが、同時にウッドフォード氏は日本の組織に対して信頼を置いていないことを垣間見ることができることも数多く話していました。例えば、社長職を追われた直後にウッドフォード氏はフィナンシャル・タイムズの記者にこのことを話します。そしてこの事件は、最初に取り上げたのが日本の雑誌だったにも関わらず、主に海外メディアを中心として、日本を除く世界中へ広がっていくことになります。一方で日本の大手メディアはオリンパス広報の言葉を鵜呑みにし、「日本を知らないイギリス人社長のご乱心」的な言われ方をされたことに不満を募らせていました。ウッドフォード氏はこのように話しています。

Woodford gives credit to Financial Times for breaking #Olympus story, also praises WSJ, NY Times for devoting so many resources to it.
Woodford complains that Japanese media coverage initially sounded like it came from the #Olympus PR department.(Voice of America スティーブ・ハーマン記者 @W7VOA)

イギリスに帰国したウッドフォード氏は、イギリスの重大詐欺局(Serious Fraud Office)への告発を行ったり、メディアに出演してインタビューに答えていきます。そうした模様はBBCやフィナンシャル・タイムズといったイギリスのメディア(同時にそれは世界的にも有力なメディアでもありますが)を中心として、欧米だけでなく日本でもロイターやブルームバーグといった日本語メディアでも知られるようになります。しかしそれでも日本の既存メディアはオリンパスのメンツを守っていたのか、それともオリンパスからの出稿がなくなることを恐れたのか、このニュースへの切り込みが疎かになり、日本メディアの腰抜けさが目立つようになりました。ウッドフォード氏も記者会見で「日本のメディアは1週間遅れでこのニュースを取り上げてくれた」と語っています。そのときにウッドフォード氏は笑いを含ませながら語っています。

そして、この言葉があまりにも決定的だと思うのですが、ウッドフォード氏はこうまで言い放っています。

Woodford: “I’m absolutely convinced” better to have gone to outside media than first to Japanese authorities.(上述 スティーブ・ハーマン記者)

“authorities”というのは、当然ながら関係当局のことでもあるのですが、ここではこれまでの会見の内容と照らし合わせると、メディアもその中に含まれてていると考えておかしくないでしょう。新宿の会議室で起こっていたことを、霞が関の当局や大手町や築地のメディア各社ではなく、ロンドンのフィナンシャル・タイムズ経由で世界中に発信させたほうが、より影響力が強い、ウッドフォード氏はそう確信していたように思います。そしてその考えは正しかったといえるでしょう。同時にそれは、外国人の視点で日本をよく知ることができたゆえ、日本の当局が無能であることを見透かしていたようにすら感じます。

ウッドフォード氏は役員として過去のオリンパスの決算に絡んでいたことに責任があるとして、一部株主から被告として名指しされています。それもまた事実ですが、仮にオリンパスが今でも日本人社長だったとしたら、今回の問題は表面化しないどころか、より悪化していったのかもしれません。その点、ウッドフォード氏は実体験を通じて信頼を置けない日本のメディアと司法当局、外見ばかり気にして中身が機能しない「日本株式会社」の取締役会が何たるかを日本人に向けて「educate」したように思えてきます。それはジョン・グリシャムの小説と言うよりは、教科書の役割です。

ちなみに、この記者会見でも取材していたハーマン記者は、会見後に日本テレビの取材を受けたそうです。そこで何かしらを答えたようなのですが、

Was approached by NTV on camera Q&A react to Woodford event. It won’t get on air as I focused on how #Japan big media ignored story.

実際この模様が流れたのかどうかはわかりませんが、確信を持って流されないと言ってるところを見ると、相当なことを言ったに違いありません。オリンパス事件は何なのか、自分たちがこの事件に対して何をしてきたかをいまだにわかっていないのは、オリンパスの本社から程近いところにある日本のメディアなのでしょう。そのことは外国人だけでなく日本人も知ってることです。


解任 マイケル・ウッドフォード

Exposure: Inside the Olympus Scandal: How I Went from CEO to Whistleblower

1974

ちなみ

ニャン×2

[NCAA短評]No Paterno-lism

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Penn State Fires Paterno, President Amid Scandal(NPR news)
No. 19 Nebraska hangs on to beat somber Penn State (ESPN)
Blinded by Penn State’s utopian vision (Philly.com)

当然ながら日本では全く報道されなかったニュースですが、この1週間以上アメリカでは”Penn State”という言葉を聞かない日は全くありませんでした。

“Penn State”それはフットボールチームのヘッドコーチ、ジョー・パターノと同義語です。パターノは1950年からPenn State、つまりペンシルバニア州立大学のフットボールチームのアシスタントとしてその経歴を始め、1966年からこれまでずっとこの大学のフットボールチームを指揮しました。その間にはチームを何度となく正月のボールゲームへ導き、2度の全米優勝、5度の無敗シーズンを果たし、通算409勝を挙げています。これはトップカファレンスのカレッジフットボール界では一番の成績です。プロスポーツ同様に入れ替わりの激しいフットボールのヘッドコーチの世界において、パターノがこれほどまでに長い期間指揮を執ることができたのは、戦術だけでなく選手への教育をも怠らなかったからでしょう。

しかし、パターノは大きな不作為を犯しました。いや実際に罪を犯したのはパターノの部下であったかつての守備コーディネーターのジェリー・サンダスキーでした。落ちこぼれの子供を救う財団をも運営していた(そこにはパターノも関わっていた)サンダスキーは、2002年にある男の子に対して校内のシャワールームで性的ないやがらせを行いました。アメリカのニュースサイトではその内容も書かれていますし、捜査記録も見ることができますが、それはあまりにもおぞましいとしか言えないものです。サンダスキーは当然ながら逮捕されましたが(それでも無実を主張)、パターノと大学関係者は、記事にも書かれているように、この事件を知りながらも警察には通報しませんでした。

One key question has been why Paterno and other top school officials didn’t go to police in 2002 after being told a graduate assistant saw Sandusky assaulting a boy in a school shower.

これが大学ぐるみ、そしてパターノによる「もみ消し」とみなされ、サンダスキーの逮捕後、パターノもその責任を負うべきという声が高まりました。

この事件の発覚以前から、高齢のパターノに対しては、健康問題だけでなく、ここ最近の成績の伸び悩みや、かつてのようにトップクラスのボールゲームへ出場できない現状から、もうコーチとしての頂点は既に過ぎたという声はありました。パターノ自身も2004年に引退するか、引退までの道筋を立てるように促されましたが、自宅へ説得に来た体育部長などを追い返しました。しかしそうは言ってもパターノは学長以上に大学の顔ですし、今シーズン、チームは久しぶりにローズボールへ出場できるのではないかというくらいに好成績を上げていました。それがかえってパターノの偉大すぎる存在から来る問題の複雑さを産んだように思います。

パターノへの道義的責任が日に日に強くなっていく中、水曜日(11/9)にパターノは「今シーズン限り」のコーチ引退を表明しました。しかし10日から11日に日付が変わろうとする頃、大学の評議会がパターノと学長の即刻解雇を命じました。かつて体育部長が自宅まで行って引退を促しながらも、それを突っぱねたパターノの元へは、解雇の旨が電話で伝えられたといいます。皮肉なもので、もしパターノはサンダスキーの件を警察へ電話をしていれば、このようなあまりにも冷たい形でその偉大なコーチ人生を終えることはなかったでしょう。そしてこのニュースが伝わると、大学の生徒からはパターノをコーチへ戻せという抗議運動が起こり、一時は静かな大学町が総動員の警察と抗議す大学生のにらみ合いの場になったほどです。

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そして一連の騒動が明けた13日、ペンシルバニア州立大学はネブラスカを迎えての試合、ジョー・パターノが46年ぶりにいない中での試合を臨時コーチの下で戦いました。この試合では両チームの選手たちが今回の事件で犠牲になった子供たちへ祈りを捧げる場面もありましたが、ペンシルバニア州立大学の勝利をもって再生を図ろうと捧げた願いは叶いませんでした。

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この事件を遠くから眺めていて、いろんなことを感じさせてくれました。まずは子供に対する性的いたずら(molestation)に対しての視線がアメリカではどれだけ厳しいものであるかということです。数年前にカトリック教会の司教などがやはり教会に集まる男の子に対して今回のようないたずらを犯したことがありました。このときはその閉鎖的なカトリック教会の社会があぶり出されましたが、今回はパターノの不作為だけでなく、大学の閉鎖的な態度も槍玉になりました。

もうひとつは、大学スポーツの影響力の大きさです。特にペンシルバニア州立大学のような有名校で、ジョー・パターノという超有名なヘッドコーチが間接的であっても関わった事件に対して、全米中のみならずBBCでも報道されたほどです。同時にペンシルバニア州立大学といえども、地元社会との関わりあいやつながりが重要視されています(この点が日本の大学では希薄なところだと思います)。小規模な大学や高校での事件であれば、地元メディアのトップニュース程度の扱いだったでしょう。しかし今回は大企業並みの不祥事として地元社会だけでなく全米で誰もが注目するニュースになりました。

今回の一件は、フットボールチームの活躍によりメディアに多く出ることが許されるという商業的な側面と、大学本来の教育的側面、地域社会から得られる信頼関係の側面、そして金でも教育でもないそれ以前の倫理的な面がすべてあぶり出されました。NCAAフットボールは、この1年間に有力校を率いたふたりのヘッドコーチ、オハイオ州立大学のジム・トレッセルとペンシルバニア州立大学のパターノが、成績の悪さではなく、選手及びチーム周辺の不祥事によりその職を失いました。誰がこのような事態が起こると予想できたのでしょうか。

みゃなっきぃ その3

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