[MLB短評]完璧さと信頼性

野球にかぎらず、どのスポーツにおいても、選手はウィリー・メイズの”The Catch”のような素晴らしいプレイをするか、ビル・バックナーのトンネルのような痛すぎるエラーをするかで人々の記憶に残ります。一方で審判は、素晴らしいジャッジをしたことで人々の記憶に残ることはありません。そもそも、「素晴らしいジャッジ」などというものは存在せず、審判は厳格にルールを守り、その中でジャッジをすることを期待されているからです。

そうだからこそ、審判によるミスジャッジは多くの人々の記憶に残ります。今週、メジャーリーグでは二晩連続で「疑惑の判定」ではない、「不適切な判定」(improper call)がありました。その主役になったエンジェル・ヘルナンデスやフィールディン・カルブレイスは、人々の記憶に残り続けることでしょう。

ひとつめは現地時間5月8日のアスレチックス対インディアンズ戦でした。9回表、4対3でインディアンズがリードする中、アダム・ロザレスが左中間に大きな当たりを放ちました。ボールは何かにあたりフィールドに落ち、インプレイとなり、ロザレスは2塁にとどまりました。その後、審判団はリプレイブースへ走りました。ここまでは滞りない手続きが執り行われましたが、ブースから出てきた責任審判のエンジェル・ヘルナンデスは二塁打との判定を下しました。

果たしてこの判断は正しかったのでしょうか。この動画を見れば分かります。
Must C | Must C Crucial: Rosales’ double, Melvin’s ejection – Video | MLB.com: Multimedia
ボールはスタンドのある手すりか何かに当たって、フィールドに落ちたように見えます。どちらにしても、スタンド内の何かに当たりました。フィールドで判定を待つ選手たちにも、ホームランであろうという雰囲気が漂うだけでなく、この動画を見ると、インディアンズのファンと思われる人も、手を回しています。このとき、ホームランを打たれたインディアンズの抑え、クリス・ペレスですら、ホームランを打たれたと確信しています。

A’s-Indians tilt takes controversial turn in ninth | oaklandathletics.com: News 2013/5/9
Honestly, I saw it hit the yellow line and come down. So I thought it was in play still. Obviously, coming back in here, I saw different. Off the bat, I thought it was a homer. He hit it pretty good. It sounded like a homer. But then it came down, and I thought we had some life.

They went and reviewed it. The longer it went, the more I thought, ‘All right. They’re going to say it’s a homer.’ Luckily, the call came in our favor. I don’t think I’ve ever been on the other side of a replay like that, but I’ve definitely been on the other side of bad calls and missed strikes and stuff like that. It’s part of the game. We’ll definitely take it.

そのような中で二塁打と判定し、この直後に抗議をしたアスレチックスのボブ・メルヴィン監督を退場させたヘルナンデスは、次のようなコメントを試合後に残しています。ここまで自信を持っているということは、ある意味勇気があると言わざるを得ないでしょう。リプレイブースで見ることができる動画と、一般的にテレビを通じて見ている映像は同じものだとされているのですが・・・

What exactly did umpires look at in replay review of controversial non-home run call – MLB News | FOX Sports on MSN 2013/5/10
It wasn’t evident on the TV we had [that] it was a home run. I don’t know what kind of replay you had, but you can’t reverse a call unless there is 100 percent evidence, and there wasn’t 100 percent evidence.

angel-hernandez-getty2

これを見てふと思い出したのが、2010年6月2日、デトロイト・タイガースのアーマンド・ガララーガによる幻の完全試合でした。9回表2アウト、一塁塁審のジム・ジョイスはきわどい内野ゴロの当たりでセーフの判定を下しました。でも、ジョイスの場合には個人の偉大な記録に関わるかどうかであり、試合後涙を流して「誤った判断を下した」と反省した一方、平然と自分の判断を擁護するヘルナンデスの判定は、試合結果に左右を与えかねないものであり、深刻さは比べ物になりません。同点になる機会を奪われたアスレチックスの選手にとって、この一言が全てではないかと思います。

結局、メジャーリーグはこの試合で「不適切な判定」が下されたとしながらも、結果そのものが覆されることはありませんでした。翌日、メジャーリーグは以下の声明を出しています。

MLB: A’s-Indians replay ruling to stand | MLB.com: News 2013/5/9
Major League Baseball Statement | MLB.com: News 2013.5.9
By rule, the decision to reverse a call by use of instant replay is at the sole discretion of the crew chief. In the opinion of Angel Hernandez, who was last night’s crew chief, there was not clear and convincing evidence to overturn the decision on the field. It was a judgment call, and as such, it stands as final.

Home and away broadcast feeds are available for all uses of instant replay, and they were available to the crew last night. Given what we saw, we recognize that an improper call was made. Perfection is an impossible standard in any endeavor, but our goal is always to get the calls right. Earlier this morning, we began the process of speaking with the crew to thoroughly review all the circumstances surrounding last night’s decision.”

そのような中、その翌日にも審判による不適切な判定が行われました。今回はヒューストンでのエンジェルズ対アストロズ戦でのできごとでした。5対3でアストロズがリードする7回表、このような流れが展開しました。

Must C | Must C Challenge: Scioscia protests Porter’s move – Video | MLB.com: Multimedia
Pitching Change: Wesley Wright (左腕) replaces Paul Clemens.
Offensive Substitution: Pinch-hitter Luis Jimenez (右打者) replaces J. B. Shuck.
Pitching Change: Hector Ambriz (右腕) replaces Wesley Wright.
Offensive Substitution: Pinch-hitter Scott Cousins (左打者) replaces Luis Jimenez.
On-field Delay.
With Scott Cousins batting, wild pitch by Hector Ambriz, Howie Kendrick to 3rd. Chris Iannetta to 2nd….

メジャーリーグのルールブックでは、投手の交代についてはこのように書かれています。

Rule 3.05(b)
If the pitcher is replaced, the substitute pitcher shall pitch to the batter then at bat, or any substitute batter, until such batter is put out or reaches first base, or until the offensive team is put out, unless the substitute pitcher sustains injury or illness which, in the umpire-in-chief’s judgment, incapacitates him for further play as a pitcher.

交代で出た投手は、ケガなどの事態ではない限り、1球も投じることなく、というより打者がアウトになるか出塁するまでは交代させることはできません。しかし、アストロズのボー・ポーター監督は、ウェズリー・ライトがマウンド上で投球練習中にエンジェルズのベンチ前を見て、「代打の代打」ならぬ「投手交代の交代」を行いました。これを見たエンジェルズのマイク・ソーシア監督は審判団に抗議をしました(動画の中で審判が大きく「P」の文字を作ったのは、正式な抗議があったことを意味します)。結局、なぜかポーターの行った投手交代はそのまま通り、ライトは打者へ1球も投げずに交代させられました。さすがにこの状況に対しては、アストロズ側のテレビ実況も、「ソーシアに全面同意する」としか言うしかありませんでした。
Los Angeles Angels at Houston Astros - May 9, 2013  MLB.com Photos

この投手交代は、ポーターの勘違いにより発生しました。

Umpiring crew disciplined for rule mishap | MLB.com: News 2013/5/10
If you have to pinch-hit for that batter, you now have the right to bring in another pitcher. Technically, Wesley came in to pitch to the batter that was scheduled to hit [Shuck]. But [Jimenez] pinch-hit for the batter that was scheduled to hit, which, from my understanding of the rule, you can bring in another pitcher to face the pinch-hitter.

人間誰しもルールを誤って理解することはあるかもしれません。しかし、そのルールを取り仕切る人物がその誤りを正すことを怠りました。今回は、審判団はルールにないことを行ったので、ヘルナンデスの二塁打判定よりも悪質であり、弁護の余地も与えられません。そのような点もあり、責任審判のフィールディン・カルブレイスは2試合の出場停止を命じられ、カルブレイスのクルーに参加している他の審判も罰金を命じられました。

ちなみに、これまでのところ、エンジェルズ・ヘルナンデスに対しての出場停止などの処分は出ていません。カルブレイスがルールブックを逸脱した行為をした一方、ヘルナンデスは自らの判断でホームランを取り消した違いから出ているようです。皮肉なことに、ケン・ローゼンタールが言うように、カルブレイスの一件があったおかげで、ヘルナンデスの方が良く見えてきます。それでも、世間のヘルナンデスへの視線は厳しさを増しています。ここにきて、ヘルナンデスが20年前にマイナーリーグの審判をした時の「悪質な」審判ぶりも明るみになりました。Philly.comは”Angel Hernandez ruins baseball game“とまで言い切りました。個人的にも、ヘルナンデスが特に主審を努める際、ストライクゾーンの一貫性が劣っているという印象を持っていましたが、今回の判定の事件はそうした疑念に対する「決定打」になりました(試合後の無駄な強気がそれをさらに助長させています)。

野球は、他のスポーツと比べて、人間の誤りもまたその要素のひとつと言われることが多い不思議なスポーツです。これまでも数多くの誤審はありました。それによりメジャーリーグの長い歴史の一部は形成されたと言い切ってもいいでしょう。また、誤り減らすためにメジャーリーグはホームランにおけるビデオリプレイを導入し、今後その用途は拡大される可能性が高いです(メルビンはもともとビデオリプレイ拡大論者でしたが、その機能の「被害者」になったことで、懐疑論者に乗り換えようとしています)。ところが、審判がリプレイ機能がうまく使わず、ホームランが二塁打に変えるならまだしも、ルールブックそのものを理解できていないことは、野球の要素には含まれてはいけないことです。

”Perfection is an impossible standard in any endeavor”というメジャーリーグの声明に書かれている言葉はそのとおりです。それはどんなことにも当てはまるし、人は完璧になれなくても完璧を目指すことはできます。審判団には、今週の一連の事態を活かして、完璧を目指すことを怠らないでほしいです。ただし、今週メジャーリーグで揺らぎ始めたのは、完璧さではなく、AccountabilityもしくはCredibilityです。メジャーリーグはこれを取り戻さなければなりません。

Angel Hernandez’s Home Run Miscall Is Part of Baseball, But Umpire’s Lack of Accountability Is Shameful | MLB | NESN.com 2013/5/9
Anthony Castrovince: Errors part of game, but it shouldn’t be with replay | MLB.com: News

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