[ソチ・オリンピック]因縁・熱狂・緊張・冷静

20140215 TJ オシー

Oshie’s shootout heroics power U.S. past Russia-NHL.com (02/15/2014)
Russia no-goal sparks controversy, ignites Games-NBC Sports (02/15/2014)
2014 Sochi Olympics – Disputed non-goal opens the door for Team USA’s win – ESPN (02/15/2014)

ソチ・オリンピックのアイスホッケー男子予選リーグ、アメリカ対ロシア戦の直前、FOXスポーツはまだ朝早い、あるいはまだ夜が明ける前のアメリカ国内向けに、上のようなツイートを流しました。「今、起きてこの試合を見ていないならば、お前はアメリカ人ではない!」とは、オリンピックの中継を担当していない放送局の割には、いやオリンピックの中継を担当していない気楽な立場だから言うことができるのか、いずれにしても、予選リーグなのにこの熱の入りようにはちょっと笑ってしまいました。

これはまだ予選です。でも、アメリカとロシアの間には、ロシアがまだソ連と呼ばれていた頃からの因縁があります。アメリカとロシアが冬季オリンピックで戦うとき、レイク・プラシッド、氷上の奇跡の話はいつまでもつきまといます。外交的にも、政治思想の面でも、この両国の間には数々の問題が横たわっています。ロシアはアメリカの元CIA職員を入国させた一方、アメリカはロシアの同性愛者に対する弾圧を非難しています。おまけに、ウラディーミル・プーチン大統領がこの試合をアリーナから見守っていました。この試合が、試合前から、予選以上のものであることの材料には事欠きませんでした。

しかし、実際の試合はうたた寝どころか、まばたきすら許されない展開となりました。ロシアは、自陣からあっという間にごアメリカゴールへと襲いかかるスピード感あふれる攻撃と、アメリカがパックを持った瞬間にニュートラルゾーンで抑えこむ守備の戻りの早さで、アメリカに流れを持ってこさせないようにしていました。一方のアメリカは、ロシアのカラフルな攻撃を、ゴーリーで29セーブを見せたジョナサン・クイック含めて守り抜き、その中から攻撃の機会を伺い続けていました(アメリカの2得点はいずれもパワープレイからのもの)。アメリカはロシアの猛攻に疲れ果てて、3rdピリオドで力尽きるのではないか、試合序盤はそんなことも考えながら見ていました。

試合が大きく動いたのは、得点シーンではなく、得点にならなかったシーンでした。2-2の同点で迎えた3rdピリオド残り4分40秒。フェドール・チューティン(Fedor Tyutin)のロングショットがアメリカのゴールに突き刺さり、ロシアが逆転した!と思われた瞬間、審判団のビデオ判定の時間が不穏な空気を運んできました。その結果、このゴールの直前にゴールが動いていたことにより(それもほんの数センチだけ)、ロシアの得点が認められませんでした。NHLのルールでは、この場合でもロシア側のゴールと認められます。

63.6 Awarded Goal – In the event that the goal post is displaced, either deliberately or accidentally, by a defending player, prior to the puck crossing the goal line between the normal position of the goalposts, the Referee may award a goal. In order to award a goal in this situation, the goal post must have been displaced by the actions of a defending player or goalkeeper, the puck must have been shot (or the player must be in the act of shooting) at the goal prior to the goal post being displaced, and it must be determined that the puck would have entered the net between the normal position of the goal posts.

“When the goal post has been displaced deliberately by the defending team when their goalkeeper has been removed for an extra attacker thereby preventing an impending goal by the attacking team, the Referee shall award a goal to the attacking team. The goal frame is considered to be displaced if either or both goal pegs are no longer in their respective holes in the ice, or the net has come completely off one or both pegs, prior to or as the puck enters the goal.

当然ながらロシア側はこの判定に心底から怒りを覚えたに違いありませんが、ここはグッとこらえて後の試合を続けました。それでも、アレックス・オヴェチキンは言いたいことがたくさんあったようで、クイックは2分間のペナルティを与えられるべきだったとまで主張しています。

I don’t know what happened there, but it was definitely a goal. Nobody [from Russia] touched the net, but the goalie touched the net so that the net moved. The referee had to see it. He should have given him two minutes.

一方、クイックは振り返ってネットを見るまで、それが動いていたとは知らなかったと話し、さらに”lucky break”だったと話しています。

いずれにしても、ロシアは決定的な機会を奪われ、アメリカは落ちかけた崖から這い登ることに成功しました。この判定により、試合はオーバータイム、そしてシュートアウト戦へと流れ込みます。もうここまで来たら二度寝は厳禁、席を外すことすら許されない状況です。そして、延長とシュートアウトにより、アメリカ対ロシアのアイスホッケーの歴史を分厚くするものになりました。そこに刻み込まれるに違いない名前が、T,J オシー(T.J Oshie)でした。国際試合のルールにより、4回目以降のシュートアウトでは、一度出た選手であっても何度でも使うことができるのですが、アメリカはこの選手にすべてを賭けました。シュート前、テレビがオシーを映し出していましたが、肩越しに後ろを見る、全く同じポーズに落ち着きがみられました。オシーは渦巻く緊張感を跳ね除け、期待に応えてくれました。

そして、8回目のシュートアウトでゴールが決まり、アメリカが勝利したとき、オシーは反対側のゴール前にいたクイックを指さしました。それについて、ライアン・ウィトニーはこう書いています。

確かに、この試合の最大の功労者はオシーでしょう。多くのアメリカ国民はワシントン州の非常に小さい町で生まれ、セントルイス・ブルースで活躍するこの選手のことが気になっているに違いありません。それは、大統領も同じです。

そして、この試合の直後、オシーのウィキペディアに「アメリカの英雄」という紹介文が載るまでに至りました(その後すぐに元の形に修正)。
20140215 ウィキペディア

しかし、そうした周囲の盛り上がりをよそに、ウィトニーはオシーのこのような発言を引用しています。

アメリカにとって、もちろんロシアにとっても、金メダルを狙うにあたっては予選でいい成績を勝ち取ることは重要なことです。それでも、このアメリカ対ロシアには、予選での一戦以上のライバル対決が意味づけられ、予選であることを忘れさせれくれるほどの緊張感と熱狂が生まれました。正直なところ、このような試合が決勝でも、「氷上の奇跡」みたいに準決勝でもないところで行われたことがもったいないくらいにも思えます。その中でも、ロシアの攻撃を耐えたクイックと、シュートアウトでロシアのゴールを割ったオシーの冷静さがかえって光ったように感じます。

まだ予選です。アメリカもロシアも決勝ラウンドに出て、もう一度対戦する可能性は十分にあります。それでもFOXスポーツではないですがこう言いたいです。この試合を見てなかった人は、スポーツファンではない!

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