[MLB短評]Stras Test

Nationals ace Stephen Strasburg’s final start of 2012 to come Sept. 12 | MLB.com: News (2012/9/2)
Johnson on Strasburg: ‘I know how he feels’ | MLB.com: News (2012/9/3)
Strasburg shutdown? Nats can still be a playoff powerhouse – The Washington Post (2012/9/3)
Chris Sale, Stephen Strasburg on different rest regimens – Cliff Corcoran – SI.com (2012/8/12)
Mike Bauman: Stephen Strasburg shutdown shows Nationals’ faith in franchise | MLB.com: News (2012/9/4)
Cal Ripken and Michael Wilbon on Strasburg – DC Sports Bog – The Washington Post (2012/9/5)

アメリカでは、9月の第1月曜日に当たる「レーバーデー」(労働者の日)が夏の終わりと考えられています。その日を前にして、ひとつの議論に終止符が打たれました。それはワシントン・ナショナルズのスティーブン・ストラスバーグの今シーズンの「労働」が現地時間9月12日をもって終了するというものでした。

今シーズンのはじめから、ナショナルズはトミー・ジョン手術明けのストラスバーグに対して1シーズンに対して160-180イニングという投球制限を与えることを明言していました。ナショナルズは今シーズン初めて開幕からローテーションに入るストラスバーグ活躍の恩恵を受けています。それでも、ナショナルズはストラスバーグが、例えばマーク・プライヤーのように、若くして故障を抱えてその能力を活かせないまま終わるスーパースターで終わってほしくないと願っています。その方がチーム強化にも、そしてもちろんビジネス面でも割が合うからです。

この問題はシーズン中ずっと議論がなされていました。それはストラスバーグ(2012/9/2までに156回1/3で投球)がそれだけの議論に値する選手だからだけでなく、非常に負けん気の強い(ultra-competitor)ストラスバーグがこのチームの方針に反対をしていたからです。カル・リプケンは、チームは理性的(rational)な判断をしているとは思うけど、ポストシーズンへ進出できるかどうかは貴重な機会でもあるとしたことで、このように述べています。もしかしたら、今のストラスバーグはリプケンの意見に同意するかも知れません。

If it was me, if I was Stephen Strasburg, I’d be making a lot of noise, saying, ‘I’m pitching.

デービー・ジョンソン監督は9月2日にストラスバーグの最終登板日を明言した翌日、GMのマイク・リゾー、投手コーチのスティーブ・マッカーシーと共にストラスバーグとこの件について話し合い(a nice little conversation)をしました(話し合い、というよりは言い渡しに近いのだと思いますが)。そのときですら、ストラスバーグは「恐らくこの決定に納得していない」様子だったと監督は語っています。そして、監督はこのチームは1回きりのプレイオフ進出を果たすためのチームではなく、それが今後も続くように作られているチームであることを以下のように述べ、自らとチームは「正しいことを行った」(right thing to do)と語っています。ストラスバーグはその中でも核をなす選手だということです。

The way I look at things, the job that the [team owners, the Lerner family] and the front office have done building this organization, I don’t look at this as the only chance you’re going to get to be in the postseason, the World Series. This team wasn’t just piecemealed together for one year. It was built to last, and we’re trying to make sure it lasts.

もともと先発投手に1回付き100球前後を目安としていることが多く、投手を大事に使い傾向がまだ強いメジャーリーグにおいて(テキサス・レンジャーズはノーラン・ライアンが社長になって以降、投手を多めに投げさせることで投手力を強化してきましたが)、ナショナルズの方針には理解を示す向きもありました。一方で特にシーズン当初、ナショナルズはストラスバーグを9月に必要とすることになるので、そのような制限を設けることは馬鹿げているという意見も多くありました。ストラスバーグのチームメイトも、チームの方針に対して反対の声が多く聞かれました。

しかしナショナルズがナショナルリーグのイーストで2位に対して圧倒的なゲーム差で付けるようになったことで、ストラスバーグを休ませるという方向性がより明確になりだしました。皮肉なことに、ストラスバーグがここまで15勝挙げたことが、ナショナルズが躊躇なくストラスバーグを休ませるという決断に至ることができたとも言えます。その上、今シーズンのナショナルズにはストラスバーグ以外にもジオ・ゴンザレス、ジョーダン・ジマーマン、エドウィン・ジャクソン、ロス・デトウィラーなどという強力な先発投手陣を抱えています。多くのナショナルズの選手がストラスバーグ起用法に反対する中、チームの中心的役割を果たしているライアン・ジマーマンは、チームが選手の健康面を優先していることに理解を示し、「ストラスバーグはエースではあるけれでも、このチームは他にも素晴らしい先発投手陣を抱えており、十分にプレイオフ戦うことができる」という理由で、チーム方針に支持を示しました。

ちょうど同じ頃、ワシントン・ポストも、ストラスバーグは投げ続けたいという気持ちはわかるけれども、ナショナルズのストラスバーグに対する方針を支持するという社説を掲載しました(世界的な新聞であるワシントン・ポストとはいえ、ワシントンの地元紙ではあるので、ローカル紙が地元チームの施策について社説でものを言うということは珍しいことではありません)。

Saving Stephen Strasburg’s health – and the Nationals’ future – The Washington Post (2012/8/21)

今回のストラスバーグとナショナルズを巡る議論は、目の前の優勝をするための選手起用を選ぶか、それよりも今後数年間チームを担うことができる、若くて有能な選手の健康維持に主眼を置くか選択だったと言えます。ただし、ナショナルズが幸運だったのは、チームがプレイオフ進出がほぼ確定に近く、他の先発陣だけでもポストシーズンを戦うことができる状態だったということです。もしナショナルズがプレイオフ争いまっただ中だった場合でも、チームはストラスバーグの投球制限をきっちり守ったかというと、それはどうでしょう?そういうときこそ、ストラスバーグの力が必要であり、恐らく投球制限などとは言えなかったはずです。その点で、ナショナルズは「嬉しい悩み」に直面したと言えますし、それ以上にストラスバーグという素晴らしい選手を持つことができる嬉しさがあると言えます。

この問題は今後同様の投手が出てきた場合に必ずしも当てはまることもなく、かなり特殊な状況だと考えるべきでしょう。それだけ、ストラスバーグは特殊な選手だという証明です。しかし今後、ナショナルズはストラスバーグ抜きでも今年のプレイオフを勝ち残れること、そして今後数年間、しっかり温存したストラスバーグを擁して黄金時代を築くことができることを証明する番だとも言えます。

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[MLB短評]Bryce is Right!

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Nationals vs. Dodgers: Bryce Harper dazzles, Los Angeles wins in 10(Washington Post)
Harper makes much-anticipated MLB debut(MLB.com)
Harper’s debut doesn’t put him in Cooperstown, but shows he can play(CBS Sports)
Phenom Harper shows youth, brilliance in major league debut(SI.com)

今シーズンのメジャーリーグ開幕前の話題の一つは、ナショナルズのブライス・ハーパーは新人王を獲る、問題はいつメジャーリーグに上がってくるのか、ということでした。ナショナルズは2010年のドラフトトップで、また19歳の本当に若い選手をメジャーリーグに早く上げることを避けました。それはメジャー昇進が早くなればなるほど、ハーパーがフリーエージェントの権利も早く得ることができるからでした。それだけ丁寧に扱わなければならない大物です。

そして現在のチームの顔であるライアン・ジマーマンがケガにより登録枠を外れたことで、ナショナルズの登録選手枠に空きができた4月28日、その日が来ました(いずれはジマーマンとハーパーが主軸となり今年好調のナショナルズを優勝戦線へ導かなれけばならないでしょう)。すぐさまハーパーはロサンゼルスで行われたドジャーズ戦で先発7番レフトで出場しました。試合開始前から、報道陣がハーパーを取り囲み取材する姿も見られましたが、ルーキーであってもここまでの注目度が出ることはまれなことです。それを見たデービー・ジョンソン監督は、かつてメッツ時代に同じく19歳でデビューしたドワイト・グッデンのデビューの日と比較しながらも「ここまでのカメラの数を見たことがない」と言っています。

それでもハーパーは全く緊張していなかったと試合後このように語っています。それは父親に試合前「これはこれまで行ってきたいつもの試合と同じなんだ」と言い聞かされたからなのか、大物だからこその余裕なのでしょうか。

I didn’t have butterflies at all, really. It was the first time I didn’t get butterflies. I was talking to [Adam] LaRoche before the game. I told him, ‘Hey, I’m really calm right now.’ I wasn’t upbeat or anything like that. I was pretty calm. I was trying to look for my pitch and get into some good counts.

2回表にハーパーの第1打席が巡って来ました。「本日メジャーリーグデビューのブライス・ハーパー」とのアナウンスが響く中、ハーパーは観客からはブーイングを浴びました。このようなことですらメジャーリーグのルーキー、それも第1打席にしては珍しいどころか、過去そんなことあったのかなと思えるほどのことです(それにはハーパーの実力がすごいことだけでなく、これまでの自信に溢れた、あるいはこれまでの言動からふてぶてしい態度とも受けとれられるものが反映されていたと思います)。結果はドジャーズの先発チャド・ビリングズリーへの平凡なゴロアウトでした。しかしあまりにも簡単に処理できるゴロだったからか、ビリングズリーはかなり余裕を持ちながら1塁へボールを投げました。その左からハーパーは全速力で走って来ました。それでもハーパーはアウトになりましたが、この姿を見ただけで、この選手はなにか違うものを持ってるではないかと思わせる、今シーズン最も興奮する平凡な打席でした。

第2打席はフライアウトで終わりますが、7回がこの時点でハーパーがどれだけすごい選手かを証明するための時間でした。ナショナルズが1点先制後に迎えた第3打席で、ハーパーは高めのボール球を強打して、センターで今シーズンの(早くも)MVP候補であるマット・ケンプの頭上を超える二塁打を放ちました。これが順調に行けば引退までに4桁どころか3,000本達成するであろう選手の第一歩です。

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そしてその裏、今度はハーパーは強肩であることも見せつけました。1アウト1・2塁でA・Jエリスがレフト前へヒットを放ち、2塁ランナーはホームへ生還しようとします。そこで捕球したハーパーは、ホームへノーバウンドのストライクを返球しました。これは完全にアウトでした。捕手のウィルソン・ラモスが落球しなければ、アウトでした。これにより試合は同点になりましたが、それでも、このプレイだけでこれから対戦するチームは、これを見て慄いたはずです。そしてテレビ中継ではホームへ返球した後のハーパーの姿を捉えていましたが、この姿もまたどうだと言わんばかりに自信溢れた姿でした。ちなみにハーパーは翌日のドジャーズ戦では、センターの守備でフェンスに当たりながらもフライを確保しています。

でも、7回裏のラモスの落球がなければ、9回表にハーパーが初打点となるレフトへの犠牲フライもなかったかもしれません。この時は、メジャー昇格初日にしてこのような場面で打席が巡ってくるハーパーは何かを持ってるのだと確信させられたことでしょう。同時に、この試合のヒーローは間違いなくハーパーだと思ったはずです。その裏にクローザーのヘンリー・ロドリゲスが不調に陥り、捕手のラモスがボールを後ろに逸らして同点となる失点を許すまでは。

結局、この試合は10回裏にケンプがセンターへサヨナラHRを放ち試合が決着しました。ホームベースを取り囲む選手たちと満員の観客席からのMVPコールの中、飛び跳ねながら試合を締める着地を決めたケンプは、ハーパーにこれがメジャーリーグで生き残るためにはこのような勝負強さが必要なんだぞと教えつけたようにも思えました。

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本人は心を落ち着かせながらも、間違いなく人生の中で最も重要な1日のひとつを終えたハーパーは、試合後のコメントもルーキーではなくふつうのメジャーリーガーになっていました。

I wish we would have gotten the W, of course. We played a great team today. Billingsley threw a great game. We fought until the end. That’s not the way you want to start off your career. I just wish we got a W.

ハーパーはたまたま登録枠が空いた中でメジャー昇格を果たしたこともあり、ジマーマンが復帰してからの動向はまだわかりません。現在の予定ではまたマイナーに降格させられることになっています(そうしなければフリーエージェント権の獲得時期に関わるからです)。ハーパーは5日くらいしなければメジャーリーグが何かはわからないと答えていますが、それでもハーパーは若すぎることや技術面に対する周囲の疑問に対して1日でその一部に対して答えることができたのかもしれません。

同時に、メジャーリーグはこの大物新人選手のデビューに喜んでいるはずです。それはこの日の先発だったスティーブン・ストラスバーグのように、その動向を追いかけられる「本当の意味」でのルーキー、つまり海外から来た1年目の選手ではなく、アマチュアドラフトとマイナーでの経験を見てきた上で、メジャー昇格を果たした大物選手の成長を見続けていくことができる選手が欲しかったはずです。現在でもメジャーリーグの顔と呼べる選手は数多くいますが、現在のメジャーリーグにはジェレミー・リンやティム・ティーボウのような選手がいません。その意味では、ナショナルズだけでなくメジャーリーグは、19歳のハーパーが選手として、またひとりの人間として、どのような活躍と成長を果たしていくのかに期待を掛けているに違いありません。

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