[ソチ・オリンピック]因縁・熱狂・緊張・冷静

20140215 TJ オシー

Oshie’s shootout heroics power U.S. past Russia-NHL.com (02/15/2014)
Russia no-goal sparks controversy, ignites Games-NBC Sports (02/15/2014)
2014 Sochi Olympics – Disputed non-goal opens the door for Team USA’s win – ESPN (02/15/2014)

ソチ・オリンピックのアイスホッケー男子予選リーグ、アメリカ対ロシア戦の直前、FOXスポーツはまだ朝早い、あるいはまだ夜が明ける前のアメリカ国内向けに、上のようなツイートを流しました。「今、起きてこの試合を見ていないならば、お前はアメリカ人ではない!」とは、オリンピックの中継を担当していない放送局の割には、いやオリンピックの中継を担当していない気楽な立場だから言うことができるのか、いずれにしても、予選リーグなのにこの熱の入りようにはちょっと笑ってしまいました。

これはまだ予選です。でも、アメリカとロシアの間には、ロシアがまだソ連と呼ばれていた頃からの因縁があります。アメリカとロシアが冬季オリンピックで戦うとき、レイク・プラシッド、氷上の奇跡の話はいつまでもつきまといます。外交的にも、政治思想の面でも、この両国の間には数々の問題が横たわっています。ロシアはアメリカの元CIA職員を入国させた一方、アメリカはロシアの同性愛者に対する弾圧を非難しています。おまけに、ウラディーミル・プーチン大統領がこの試合をアリーナから見守っていました。この試合が、試合前から、予選以上のものであることの材料には事欠きませんでした。

しかし、実際の試合はうたた寝どころか、まばたきすら許されない展開となりました。ロシアは、自陣からあっという間にごアメリカゴールへと襲いかかるスピード感あふれる攻撃と、アメリカがパックを持った瞬間にニュートラルゾーンで抑えこむ守備の戻りの早さで、アメリカに流れを持ってこさせないようにしていました。一方のアメリカは、ロシアのカラフルな攻撃を、ゴーリーで29セーブを見せたジョナサン・クイック含めて守り抜き、その中から攻撃の機会を伺い続けていました(アメリカの2得点はいずれもパワープレイからのもの)。アメリカはロシアの猛攻に疲れ果てて、3rdピリオドで力尽きるのではないか、試合序盤はそんなことも考えながら見ていました。

試合が大きく動いたのは、得点シーンではなく、得点にならなかったシーンでした。2-2の同点で迎えた3rdピリオド残り4分40秒。フェドール・チューティン(Fedor Tyutin)のロングショットがアメリカのゴールに突き刺さり、ロシアが逆転した!と思われた瞬間、審判団のビデオ判定の時間が不穏な空気を運んできました。その結果、このゴールの直前にゴールが動いていたことにより(それもほんの数センチだけ)、ロシアの得点が認められませんでした。NHLのルールでは、この場合でもロシア側のゴールと認められます。

63.6 Awarded Goal – In the event that the goal post is displaced, either deliberately or accidentally, by a defending player, prior to the puck crossing the goal line between the normal position of the goalposts, the Referee may award a goal. In order to award a goal in this situation, the goal post must have been displaced by the actions of a defending player or goalkeeper, the puck must have been shot (or the player must be in the act of shooting) at the goal prior to the goal post being displaced, and it must be determined that the puck would have entered the net between the normal position of the goal posts.

“When the goal post has been displaced deliberately by the defending team when their goalkeeper has been removed for an extra attacker thereby preventing an impending goal by the attacking team, the Referee shall award a goal to the attacking team. The goal frame is considered to be displaced if either or both goal pegs are no longer in their respective holes in the ice, or the net has come completely off one or both pegs, prior to or as the puck enters the goal.

当然ながらロシア側はこの判定に心底から怒りを覚えたに違いありませんが、ここはグッとこらえて後の試合を続けました。それでも、アレックス・オヴェチキンは言いたいことがたくさんあったようで、クイックは2分間のペナルティを与えられるべきだったとまで主張しています。

I don’t know what happened there, but it was definitely a goal. Nobody [from Russia] touched the net, but the goalie touched the net so that the net moved. The referee had to see it. He should have given him two minutes.

一方、クイックは振り返ってネットを見るまで、それが動いていたとは知らなかったと話し、さらに”lucky break”だったと話しています。

いずれにしても、ロシアは決定的な機会を奪われ、アメリカは落ちかけた崖から這い登ることに成功しました。この判定により、試合はオーバータイム、そしてシュートアウト戦へと流れ込みます。もうここまで来たら二度寝は厳禁、席を外すことすら許されない状況です。そして、延長とシュートアウトにより、アメリカ対ロシアのアイスホッケーの歴史を分厚くするものになりました。そこに刻み込まれるに違いない名前が、T,J オシー(T.J Oshie)でした。国際試合のルールにより、4回目以降のシュートアウトでは、一度出た選手であっても何度でも使うことができるのですが、アメリカはこの選手にすべてを賭けました。シュート前、テレビがオシーを映し出していましたが、肩越しに後ろを見る、全く同じポーズに落ち着きがみられました。オシーは渦巻く緊張感を跳ね除け、期待に応えてくれました。

そして、8回目のシュートアウトでゴールが決まり、アメリカが勝利したとき、オシーは反対側のゴール前にいたクイックを指さしました。それについて、ライアン・ウィトニーはこう書いています。

確かに、この試合の最大の功労者はオシーでしょう。多くのアメリカ国民はワシントン州の非常に小さい町で生まれ、セントルイス・ブルースで活躍するこの選手のことが気になっているに違いありません。それは、大統領も同じです。

そして、この試合の直後、オシーのウィキペディアに「アメリカの英雄」という紹介文が載るまでに至りました(その後すぐに元の形に修正)。
20140215 ウィキペディア

しかし、そうした周囲の盛り上がりをよそに、ウィトニーはオシーのこのような発言を引用しています。

アメリカにとって、もちろんロシアにとっても、金メダルを狙うにあたっては予選でいい成績を勝ち取ることは重要なことです。それでも、このアメリカ対ロシアには、予選での一戦以上のライバル対決が意味づけられ、予選であることを忘れさせれくれるほどの緊張感と熱狂が生まれました。正直なところ、このような試合が決勝でも、「氷上の奇跡」みたいに準決勝でもないところで行われたことがもったいないくらいにも思えます。その中でも、ロシアの攻撃を耐えたクイックと、シュートアウトでロシアのゴールを割ったオシーの冷静さがかえって光ったように感じます。

まだ予選です。アメリカもロシアも決勝ラウンドに出て、もう一度対戦する可能性は十分にあります。それでもFOXスポーツではないですがこう言いたいです。この試合を見てなかった人は、スポーツファンではない!

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Support NSA surveillance? That might depend on who’s president

Birk elaborates on White House no-show

[短評]平穏までの1マイル

これは4月15日(現地時間)の午後、ボストン警察のツイッターに上げられた、ボストン・マラソンの模様を撮影したものです。4月の第3月曜日、マサチューセッツ州をはじめとしたアメリカの一部の州では”Patriot’s Day”として祝日となっていますが、ボストンにとっての”Patriot’s Day”とは、ボストン・マラソンを一大イベントとして祝う日です。このとき、警察は主に交通整理や、ちょっとしたトラブルのような不測の事態に備え、それぞれの持ち場で円滑なマラソンの進行に貢献します。そのはずでした。

この写真がツイッターにアップロードされる中、犯人の兄弟はゴール地点で圧力鍋で作った爆破装置と共に、「その時」を待ち構えていたのでしょう。世界的にも知名度が高く100年以上の歴史を持つ、平和なスポーツ大会の光景は、約90分後、おそらく歴史的になるであろう爆破事件により打ち砕かれました。そして犯人兄弟にとって、ゴール地点での混乱こそが自分たちが主役となるテロという「ゲーム」のスタートになりました。

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その瞬間、交通整理にあたっていた警察官と、非番になっていた警官はテロとの戦いに入りました。また本来マラソンランナーの救護にあたるために設けられていたエイド・ステーションは、即座にトリアージとなりました。そしてあの爆破以来、ボストンは平和なアメリカ東部の街から、悲しみと恐怖の中で暮らすことを強いられる、アメリカで最も危険な街へと一変しました。この爆破事件により失われた命は3名でした(その後、最終的に犯人逮捕と射殺に繋がる銃撃事件でも犠牲者が発生しました)。しかし犠牲者の数ではすべてを推し量ることはできません。その衝撃は、オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件や、9.11と全く変わらないものでした。それは、この事件が平和な祝日、それもアメリカに感謝をする祝日に行われる、平和なマラソン大会を、2つの爆破装置で悲しいできごとにしたからに他なりません。

ちなみに、この中で特に悲しかったのは、最初の犠牲者となった8歳のマーティン・リチャード君の話です。これは現地木曜日の午前中、オバマ大統領が追悼式典で、マーティン君が次のようなバナーを持って写真を撮ってもらったと紹介しました。

No more hurting people. Peace.

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事件のとき、マーティン君のすぐとなりに犯人がいたと報道されています。その犯人には、マーティン君の願いは全くもって聞き入れられませんでした。

この事件の直後から、全米中がボストンを支援しようとする空気を包み込みました。その象徴のひとつが、事件の翌日にヤンキー・スタジアムで行われた試合で、“Sweet Caroline”が流されたことでしょう。

この曲は、ボストンを象徴するスポーツチームであるレッドソックスのホームゲームにおいて、8回表が終わると必ず流されます。それがボストンとレッドソックスを最も嫌う都市のチームのホームゲームで流されたのです。普段、レッドソックスとヤンキーズは罵り合う仲ですが、そうしたことができるのは、平穏な生活というものを基盤としていたことに気付かされました。あの事件を境に、それすら許されない状況となったのです。

Diamond happy ‘Caroline’ offers comfort – MLB – CBSSports.com (2013/4/19)

レッドソックスはPatriot’s Dayの昼間に試合を行い、爆破事件の直前に試合を終え、空港から遠征へ向かいました。爆破事件の後、最初に行われたボストンでのプロスポーツは、NHLのバッファロー・セイバーズ対ボストン・ブルーインズ戦でした。
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For Boston, a time to heal, a time to play hockey – Sports – The Boston Globe (2013/4/18)

確かにTDガーデンへ入るには、セキュリティ上の問題により、通常よりも時間を要しました。それでも17,000人を超えるファンはこの夜最も安全な場所であるTDガーデンへ、いつものように地元チームを応援するために駆けつけました。いつもと同じことをする、それこそがボストンの市民にとってテロとの戦いに他ならなかったのです。この試合であるファンがこのようなバナーを掲げていたそうです。

“BOSTON’’ read one sign in the front row of the upper bowl, directly behind the net the Bruins defended in the first and third periods. “Beacon Of Strength That Overcomes Negativity.’’

そして、そのような力強さののろし(beacon of strength)を示すために行わた、試合前の17,000人を超えるファンによる国歌斉唱。映像を見るだけでいろいろなものが伝わってくることでしょう。

傷つけられたスポーツを癒すためのスポーツの試合が行われ、続いてオバマ大統領夫妻列席の元での追悼式典(Interfaith Service)が行われました。大統領が次のような力づい良い言葉で演説を締めくくり、ボストンは一歩ずつ前へ進みだそう、そのような空気が漂い始めました。

(T)his time next year, on the third Monday in April, the world will return to this great American city to run harder than ever, and to cheer even louder, for the 118th Boston Marathon. Bet on it.

しかしこの式典から約10時間後、ボストンはふたたび緊張に包まれます。それは犯人の兄弟にとって、爆破事件に続く力の誇示でした。それはまるでこの兄弟がFBIや警察に挑戦をしているかのようにも思えました。彼らは黙って逃げ回ることを選ばず、マサチューセッツ工科大学付近で発砲事件を起こし、大学の警官を射殺しまいた。一方で第一容疑者とされた兄も警察により射殺され、第二容疑者で、危険物を所持しているとされた19歳のジョハル・ツァルナエフが住宅街へ逃走しました。この1人を追うため、事件解明のために「生きた状態で」身柄確保するため、すべての捜査当局が総動員となります。すべての交通機関が止められ、ボストン市民に対して外出を控えるよう指示が出されるまでになりました。ボストン市民の心の支えになっていたスポーツの試合、レッドソックスとブルーインズの現地金曜日の試合は、早々に中止が発表されました。

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The games will go on, but Friday in Boston was no day to play – CBSSports.com (2013/4/19)

そして、タクシーやバスが動き出し、外出制限も解除され、極限の緊張感がゆっくりと緩みだした頃、ついにこの時を迎えました。

この瞬間、事件現場の近所からは歓喜の声があがりました。今までに経験したことがないであろう緊張感に縛られた住民たちは、静かに引き上げる警察や捜査関係者に対して感謝の念を開放感たっぷりに伝えました。
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そのような中でも、ボストン警察は非常に冷静に、このようなことをつぶやいたのがまた印象的でした。

穏やかに晴れた平和な春の祝日「愛国者の日」で始まったボストンの2013年4月第3週は、その歴史の中で最も悲しく、「クリミナル・マインド」の中の世界をはるかに超える恐怖と緊張を強いられる1週間となりました。犯人が無垢な市民とマラソンランナーへ牙を剥き、ボストンだけでなくアメリカ中を震撼とさせる一方、さまざまな英雄的な行為も見られました。前者が非愛国的だとするならば、後者は愛国的と呼べるのかもしれません。しかし、そのような英雄的な行為ができるだけ少なく済むことこそが本来重要なのではないかと思います。そして、このような事件を通じてアメリカへの忠誠心の再確認と強化がなされることは良いことだと言える反面、そのことがこうした痛ましい事件を通じなければ達成できないという悲しいにも気付かされたように感じます。それこそがマーティン君の願いであり、彼は文字通り命を張ってそのことを主張しました。でも、今は事件解決に力を尽くしたすべての人たちを大いに祝うべき時です。

ボストンは絶望的なな恐怖と悲しみ、異常な平穏、異質な緊張感を経て、本来あるべきボストンに戻って来ました。この1週間は、ボストン史上最も長い1マイルでもありました。

[NFL短評]Safety first?

Barack Obama is Not Pleased | New Republic (2013/1/27)President Obama unsure if he'd let son play football – NFL.com (2013/1/27)
Ravens’ Pollard: NFL really does stand for Not For Long – CBSSports.com (2013/1/25)
Jay Cutler of Chicago Bears fiancee Kristin Cavallari doesn’t want son to play football – ESPN Chicago (2013/1/28)
San Francisco 49ers respond to President Barack Obama’s concerns – NFL News | FOX Sports on MSN (2013/1/28)
NFL JAPAN.COM|話題のオバマ大統領の発言、Sリード「オバマを支持する」 (2013/1/30)

自分には戦後にアメリカのGIと結婚したおばがいます。確か自分が高校生の頃だったと思いますが、そのおばがその旦那と共に日本へ一時帰国しました。その頃、NFLにハマりだしていた自分は、そのおばに大学に入ったらフットボールをやりたいと話しました。高校にはアメリカンフットボール部はありませんでした。そうすると、おばは「あんな危険なスポーツはやめときなさい。ものすごい大怪我をして車椅子になった人だっているんだから」と猛反対しました。もちろんその当時、自分もそのような選手がいたことは知っていましたが、テレビで見ていて自分もやってみたいという願望は強かったのを覚えています。だた、おばの助言を守ったわけではないのですが、結局いろいろあって大学に入ってからフットボール部に入ることはなく、今に至っています。

そのおばとの会話の頃、NFLは今よりも安全性について考えているとは思えない環境でした。スポーツと脳震盪の因果関係の研究もそれほど進んでおらず、スタジアムの多くはまだ人工芝で、コンクリートの上に人工芝を敷いたようなスタジアムがあったほどです。今思えば、あのような環境下で選手たちはよくも恐れをなさずにプレイしていたと思います。

それから月日は経ち、スタジアムの多くは天然芝あるいは強い衝撃が出ない人工芝へ変わりました。防具の軽量化と安全性が高まりました。最初のうちには乗り気ではなかったNFLは、脳震盪の問題に対しての援助を行うようになりました。そしてリーグはハードヒットに対してのペナルティを積極的に課すことで、より安全なフットボールを打ち出そうとしています。

そのような中、オバマ大統領が雑誌”New Republic”と行ったインタビューにおいて行った発言が話題になっています。「ゲームが選手に与える影響を考えて、大統領はファンとしてフットボールを見ることにそれほそ楽しみを見出していないように感じますが」という記者の問いに対して、このように答えています。

I’m a big football fan, but I have to tell you if I had a son, I’d have to think long and hard before I let him play football. And I think that those of us who love the sport are going to have to wrestle with the fact that it will probably change gradually to try to reduce some of the violence. In some cases, that may make it a little bit less exciting, but it will be a whole lot better for the players, and those of us who are fans maybe won’t have to examine our consciences quite as much.

I tend to be more worried about college players than NFL players in the sense that the NFL players have a union, they’re grown men, they can make some of these decisions on their own, and most of them are well-compensated for the violence they do to their bodies. You read some of these stories about college players who undergo some of these same problems with concussions and so forth and then have nothing to fall back on. That’s something that I’d like to see the NCAA think about.

フットボールの大ファンであるという、ふたりの娘の父親である大統領は、もし息子がいたとしたら、フットボールをやらせる前にじっくりと考えさせる、というのです。それはフットボールの暴力的な面と、それが生み出す脳震盪のような結果を考えたゆえだというのが大統領の考えです。

このインタビューが出される少し前、ボルティモア・レイブンズのセーフティ、バーナード・ポラードがCBSスポーツとのインタビューの中で、「NFLはこのままでは30年後には今のような状態で存在し得ないかもしれない」と自らの意見を述べました。ポラードはリーグは選手の安全を考えた対策を講じて正しい方向へ向かう一方、コーチはその逆の道を歩んでいるとしています。

[Coaches] want bigger, stronger and faster year in and year out. And that means you’re going to keep getting big hits and concussions and blown-out knees. The only thing I’m waiting for … and, Lord, I hope it doesn’t happen … is a guy dying on the field. We’ve had everything else happen there except for a death. We understand what we signed up for, and it sucks

この発言が、2ヶ月前に「フィールド外へ走り出ることができないQBを仕留めていくつもりだ」と言った選手と同じ人物が行っているとは考えにくいのですが、ポラードは、コーチが大きさ、強さ、俊敏さを選手に求めるあまり、それが安全性向上に努めるリーグの動きと反していると考えています。そしてその中でポラードが待つべきことは、選手の誰かがフィールド上で死ぬことだとまで言っています。

ポラードの意見は、オバマ大統領の発言が出て以降さらに脚光を浴びることになりました。そしてポラードや大統領の意見のように呼応する動きがNFLの中から起こりました。シカゴ・ベアーズのQBジェイ・カトラーのフィアンセは、息子にはフットボールをやらせたくないと言い、ポラードのチームメイトであるエド・リードも、自分の息子に自分からフットボールをやるように勧めることはしないと話しています。

ポラードやリードは、フットボールのポジションの中でも特にスピードを生かしたハードヒットをすることを要求されるポジションに属します。その場合に双方の選手の体に受ける衝撃は高いものです。そうした選手からこれらの発言が出ることは興味深いと思います。ポラードがいうように、彼らはそれを生業とし、そうしたプレイをするためにチームと契約していますが、その一方で自らの経験から、こうした意見が出るのでしょう。

その一方で、レイブンズとスーパーボウルで対戦するサンフランシスコ・49ersの選手からは、「フットボールはフィジカルなゲームであるべきだ」という意見が多く出ました。確かにフットボールは危険なスポーツではあるけど、それによって自分の息子にそのゲームを諦めさせるほどのことはないという意見もあります。別にこれはレイブンズの選手に対抗した発言ではなく、多くの選手やコーチの中でも、自らの息子にフットボールを勧めるかどうかの意見は分かれているとされています。中には、ポラードやリードの上司にあたる、レイブンズのジョン・ハーボーヘッドコーチは、「(フットボールは)若者だけでなく私のような人物にも、人として成長するチャンスをくれる。フットボールのように挑戦しがいがあってタフでハードな競技は、他にない」と言い切っています。

正直なところ、結婚もしてない、ましてや子供がいない自分ですら、どちらの意見もすごくわかります。ただ、どちらにも言えるのは、子供にどのような成長を望むのかということです。かつてはハーボーHCのような、フットボールをプレイすることで得られるチャレンジ精神や、集団スポーツを通じて得られる規律、日本的に言えば「しつけ」を身につけて欲しい考えのほうが強かったのではないかと思います。フットボールはフィジカルなスポーツ、もっと端的に言えば「マッチョ」なスポーツであり、それがアメリカ的な側面を持っています。息子を持つアメリカの多くの親は、その息子に他のスポーツと共にフットボールをプレイさせることで、精神的な強さと規律を学んで欲しい、そう望んできましたし、今でもれを望む親は多いはずです。

しかし、フィジカルゆえに発生するフットボールの身体や、特に脳に与える危険性が科学の発達に伴い明らかになってきました。そこから大統領やリードのように自分の息子にはフットボールを勧めないという考えや、ポラードのようにNFLの将来を心配する声が出てきたように感じます。そのことは決して悪いことではありませんし、精神的と身体的な健康は両立してこそ成り立つものです。

何度も書くように、フットボールは他のスポーツと比べても数段もフィジカルなスポーツです。そうだからこそ得られるものがあるのか、そうだからこそ失ってしまうものがあるのか、この議論には勝者も敗者はないですし、必ずしも白黒つける問題ではありません。ただ、アメリカ国民のトップが、アメリカで最大のスポーツイベントの約1週間前に、このような問題提起を行ったことは、非常に興味深いことです。

[短評]癒しと決意

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Obama reassures Newtown ‘you are not alone’ at vigil for victims of Connecticut school shootings – NBC News (2012/12/17)
BBC News – Obama delivers powerful pledge (2012/12/17)
Remarks by the President at Sandy Hook Interfaith Prayer Vigil | The White House (2012/12/16)

この週末は、投票所が開場する前から結果がわかっていた総選挙のニュースを全く見ることもなく、いまだにその動機が不明なコネチカット州ニュータウンの小学校襲撃事件のニュースに張り付いていました。被害者の氏名が公表され、小学校の教師に混じって、6歳7歳の子どもたちの名前がテレビの画面やニューヨーク・タイムズの1面に掲載されるのを見ると、この事件が銃社会と言われるアメリカにおいてもいかに特異なものであるかを痛感させられます。そしてささやかなクリスマスのイルミネーションが飾られるニュータウンは、この週末を文字通り祈りに捧げ続けました。

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The New York Times 2012/12/16

その街に宗教関係者と共に、恐らくこのような時期に最も必要とされている人物が追悼集会(vigil)に参加するために来ました。オバマ大統領です。事件直後、オバマ大統領は「親として」この事件に非常なる悲しみを覚えました。ひとりの政治家でもましてや再選を果たしてから1ヶ月ちょっと経った大統領でもなく、「ひとりの親」という立場でオバマ大統領は語りました。しかし今回オバマ大統領は、アメリカの代表者として、この打ちひしがれる街に対してシンプルかつ力強いメッセージを届けに来ました。

Newtown — you are not alone.

大統領関係者によると、オバマ大統領はニュータウンの高校の小さな講堂で行われた追悼集会での声明のほとんどを、自分で書き上げたとのことです。それだけ自らの言葉で訴えたいものがあったのでしょう。一方、この声明でも語られているように、オバマ大統領はこうした追悼集会に出席するのが今回で4回目になります。変な話、そして悲しいことでもあるけれども、大統領はこのような集会に出て声明を発表することに慣れてしまったのかもしれません。

この声明で、オバマ大統領はまず小学校で命を張って子どもたちを守った先生の勇気と、悲劇から少しずつでも立ち直ろうとするニュータウンの力強さを讃えました。それに続いて大統領は自らとアメリカに対して自問します。

(C)an we truly say, as a nation, that we are meeting our obligations? Can we honestly say that we’re doing enough to keep our children — all of them — safe from harm? Can we claim, as a nation, that we’re all together there, letting them know that they are loved, and teaching them to love in return? Can we say that we’re truly doing enough to give all the children of this country the chance they deserve to live out their lives in happiness and with purpose?

もちろんこれらの答えは明白です。

(T)he answer is no. We’re not doing enough. And we will have to change.

だからこそ今回のような悲劇が起こりました。銃規制の問題など、先の大統領選挙でも全く焦点になることもなければ、オバマ大統領はこの問題についてさほど関心を払っていなかったとすら言われだしています。そして、先程も書いたように、オバマ大統領はこのような追悼集会に出席するのが4回目になります。そこから導きだされたのは、このような決断でした。

We can’t tolerate this anymore. These tragedies must end. And to end them, we must change … In the coming weeks, I will use whatever power this office holds to engage my fellow citizens — from law enforcement to mental health professionals to parents and educators — in an effort aimed at preventing more tragedies like this.

オバマ大統領は全米に向けて、そして世界に向けて、「このような悲劇」を再び起こさないようにするために全力を使う、と宣言しました。事件発生からこの日まで、大統領は親として、大統領として自問を繰り返してきたわけで、その答えがここに出ました。同時に今後数週間、恐らくは来年の大統領就任式頃になるのかもしれませんが、大統領はより具体的な決断を下さなければならないことでしょう。しかし、BBCのマーク・マーデル氏が語るように、オバマ大統領は直接的な表現を避けつつも、これが銃ロビーへの戦いの狼煙になったことは想像に難くありません。

He didn’t directly mention gun control, but speaking in front of an audience of the bereaved and their friends in Newtown, it is the strongest pledge a president has ever made to wrestle with the powerful gun lobby.

一方、ピュー・リサーチ・センターによると、2007年のバージニア工科大学での銃乱射事件、2011年1月のツーソンでの乱射事件、今年のコロラド州オーロラの映画館での銃乱射事件後に行われた世論調査では、アメリカ国民の銃規制もしくは武器所有についての見解に変化がないことが示されています。

現役の下院議員が襲われた2011年のツーソンでの銃乱射事件の頃、アメリカ議会は「ねじれ」により民主、共和両党が経済政策で対立状態にありました。その時、オバマ大統領は民主主義は暴力に屈しないこと、そして国民全てに対して、政治色を控えめにしつつ、融和を解きました。現在、民主党と共和党は「財政の崖」をいかにして回避するべきかで対立しており、待ったなしの状態です。その中で発生したのが今回の乱射事件です。そこで大統領は子どもたちをいかにして守るべきかという親としての決意と、これ以上の悲劇を起こさないという大統領としての決意を述べました。

今回の声明は、会場の近くのレストランにいた人の声にもあるように、特にニュータウンの人々にとっては癒しとなったようです。一方でオバマ大統領の決意は議会や国民をどれだけ動かすことができるでしょうか。それは大統領の行動力に掛かっているように感じます。銃規制と武器所有の権利の間の戦いは、「財政の崖」よりも古くて根が深く、何倍もやっかいな政治問題です。

[短評]親として、大統領として

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‘Why? Why?’: 26 dead in elementary school massacre – CNN.com
Connecticut mourns after Newtown massacre; 27 dead, including 20 children- The New Haven Register (2012/12/15)
EDITORIAL: Tragedy in Newtown- The New Haven Register (2012/12/15)
Statement by the President on the School Shooting in Newtown, CT | The White House (2012/12/14)

先々週、カンザスシティで発生したチーフス現役選手によるガールフレンドの銃殺と、それに続く銃による自殺事件のとき、「銃社会のアメリカでも、一般の人がふつうに街を歩いていて銃の事件に出くわすことはそれほどない」と書かせてもらいました。何度かアメリカに行かせてもらいましたが、よほど治安の悪い地域ではない限り、そのような事件を見かけたことはありません。むしろ、アメリカ市民でもここは危ないと感じていれば、そこへ近づかないようにしているのではないでしょうか。

ふつうの街ですら銃の発砲に出くわすことなどそれほどないのに(仮にそうしたイメージがあるとしたら、それは映画かテレビドラマの見過ぎなんだと思います)、まさか郊外の静かな小学校に銃が持ち込まれることがあるなんて、どのアメリカ市民も考えることはないことです。日本風に言えば「安全神話」とでもいうべきか、アメリカでも小学校は安全かつ神聖な場所、そう信じられていました。だからこそ、コネチカット州ニュータウンのサンディフック小学校で発生した、今回の銃乱射事件は、コネチカット州を超えてアメリカ全体、そして世界中が震撼をする事件になりました。この事件において、20人の子どもたちと6人の先生、そして犯人が死亡しました。

2012年にも、残念なことにアメリカでは銃による犯罪は数多く起こりました。コロラド州では映画館で乱射事件が発生し、現地時間火曜日には、オレゴン州のショッピングモールでも乱射事件がありました。そこにコネチカット州の小学校の乱射事件も残念な形で加わることになりました。ただし、今回の事件がこれまでの乱射事件と大きく違うのは、アメリカ人でも絶対に安全と信じていた小学校で乱射事件が起こったこと、そして何の罪のない子どもたちがその犠牲になったことです。これは実際に命を落とした子供だけでなく、それを近くで見聞きしていた、生存した子供たちにとっても将来まで心の傷として残ることでしょう。子どもたちはテレビや新聞などの取材に対しても、見た目冷静にその時の模様を話しているようです(そこでふつうにマイクやICレコーダーを向けるメディアもすごいなと思うのだけど)。しかし、この子たちがふとひとりになったとき、またこの事件が風化していくにつれて、この事件の嫌な部分がトラウマとなっていくと考えると、今から怖いです。

一方で今回の事件を受けて、オバマ大統領は早速記者会見を行いました。しかし今回バラック・オバマ氏は大統領としてではなく、2人の娘を持つひとりの親として(as a parent)率直な思いを述べました。この心情の吐露とその立場は、オバマ氏が考えたのか、オバマ大統領が考えたのか、それともオバマ大統領のスタッフが考えついたのかわかりませんが、恐らくは党派を超えて子を持つ親としては純粋に共感できる内容(と自然な演出)だったと思います。

オバマ氏はこの記者会見の最後に、「大統領として」できる限りのことを行うと話しています(And I will do everything in my power as President to help.)。しかしその”everything power”とは何でしょう?この記者会見の本文には、不思議なことに”gun”や”shooting”という言葉はなく、この事件については「凶悪な犯罪」(heinous crime)という言葉を充てています。これはこのような状態では、大統領は人々の沈んだ心を癒す司令官(Healer in Chief)としての役割を優先させたのでしょう。逆に言えば、ここで感情に任せて銃規制という政治的な発言を行うのは適当ではないと考えたのでしょうか。

それは「親として」はふさわしくても、アメリカの大統領としてはもはや避けられない事態になりました。奇しくも、アメリカはこの乱射事件の数時間前、トルコへミサイルなどを派遣することを決定し、シリアと対峙する姿勢を示しました。アメリカはトルコとNATOを独裁国家から守る意思があっても、アメリカ国内に数多くいる無垢な子どもたちをひとりの乱射犯から守ることができないのか、そうした疑問が湧いてきても不思議ではありません(これは決してトルコ国民や虐げられているシリア国民とアメリカ国民の命のどちらが重要なのか、という意味ではありません。片やアメリカ外交の、もう一方は内政の問題です)。

しかしそれは同時に、アメリカの市民全てが果たしてこうした銃社会が彼らが望んでいたものなのかを、もう一度問い直す機会になったことでしょう。それが夢を見ることすら許されずこの世を去った子どもたちへの弔いになると思います。

We must wake up, the time is now evil is now attacking our kids. Lord please show us another way, why so much silence when so much pain exists everyday. We must come together, lets not let this be just another Tragedy. The only way to do it is together, if it takes a village to raise 1 child then it’s gonna take everything we have to save our children. Lets start having real conversation to make our world a better place. Lord my Prayer today is please help thru this Storm. Me and my family will be Praying for the entire Sandy Hook Elementary School, you’re not alone.
Ray Lewis

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