[MLB短評]評決前夜

Hall of Fame Tally on Bonds and Clemens Will Offer Verdict on Steroids – NYTimes.com (2013/1/5)
Exercising my right not to vote | Cincinnati.com (2012/12/31)

現地時間の1月9日、アメリカ・クーパースタウンの野球殿堂にその名前を刻むことができる元選手が発表されます。全米野球記者協会(BBWAA)の投票権を持つ記者による投票は、昨年末に締め切られました。

今回の殿堂入り投票では、バリー・ボンズとロジャー・クレメンスという「元」大選手が1年目の殿堂入りの資格を得ることが、昨年のこの時期から話題になっていました。どちらも現役時代に輝かしい成績を収めながらも、同時に使用禁止薬物との関わりが取りざたされて、実質的な現役引退後は汚れた過去を引きずっています。ボンズやクレメンスだけでなく、サミー・ソーサやラファエル・パルメイロといった、薬物使用と関わりのある「元」大選手は殿堂入りに値するのか、これは多くの議論を生み、同時にその結果は記者協会の「評決」に委ねられようとしています。

先月末、AP通信は協会員の記者100人にアンケートを取ったところ、ボンズの殿堂入りを支持する記者は45人、クレメンス支持は43人という結果が出ました。ニューヨーク・タイムズも同様のアンケートをより多くの記者を対象として行ったところ、ほぼ同じ割合の結果となったことです。それだけ、記者たちもボンズやクレメンスの取り扱いに悩んでいるということを示しています。ちなみに、クレメンスは薬物問題における議会証言での偽証罪に関して、無罪が確定しています(それと薬物使用の事実に関しては依然として不明)。それでも、ボンズとクレメンスにおいて差がないということは、一度でも薬に染まったのであれば、裁判所であってもそれをぬぐい去ることができないことを意味します。

そのような中、シンシナティの地元紙でレッズをカバーするジョン・フェイ氏は、今回に殿堂入り投票を郵送しなかったことを昨年の大晦日に表明しました。アメリカの殿堂入り投票権を持つスポーツ記者は、多くの場合自分は誰に入れる(あるいは入れた)のかを自らのコラムなどで説明することがありますが、フェイ氏は自ら投票を棄権したこと、フェイ氏の言葉では「判事にも陪審員にもなることをやめた」ことを認めました。フェイ氏は以下のように書いています。

From the BBWAA Rules for Election to the National Baseball Hall of Fame:

“Voting shall be based upon the player’s record, playing ability, integrity, sportsmanship, character and contributions to the team(s) on which the player played.”

I’m one of the eligible voters as a 10-year member of the Baseball Writers’ Association of America. I feel woefully unqualified to judge the “integrity, sportsmanship and character” of players in the steroid era.

その上で、直感として(gut feeling)「私は投票者としては終わった」と結論づけています。それならばなぜボンズやクレメンス以外の潔白な選手へ投票しないのかという疑問も浮かびますが、フェイ氏は「ステロイド時代の」選手たちに評決を下すことができないとしています。もはや、騙されたという気持ちのほうが強いのでしょうか。

これは2011年にライアン・ブラウンがMVPを獲得し、その後薬物使用の疑惑を持たれた時にも出た意見ですが(ブラウンは後に白判定となった)、薬物問題がややこしくなっているのは、メジャーリーグがその問題を解決しようと積極的にならなかったことであり、その正当性は記者たちによるMVP投票や殿堂入り投票に委ねられているからです。そもそも、野球賭博により球界追放されたピート・ローズは、幾度かの名誉回復運動がありながらも、殿堂の扉は閉ざされたままである一方、ホームラン数や奪三振数に嘘を付かせた可能性が高いボンズやクレメンスに対しては、ローズと同様の措置を取られていません。

そしてニューヨーク・タイムズの記事にあるように、記者たちも、自らの判断が歴史を作るより、時間がなんとかしてくれるかもしれないと自然な解決を望んでいるようです。

Bernie Wilson, an Associated Press writer who is based in San Diego and voted for neither Clemens nor Bonds, said: “The beauty of the Hall of Fame process is that candidates are on the ballot for 15 years. There’s always the possibility I’ll change my mind on Clemens and Bonds down the road. What’s the harm in making them wait?”

記者たちがここまで悩むのは、”Hall of Famer”はその人物に対して、その後一生において最上級の肩書きになるからです。ある意味、その人物を左右することを行う、正しく「評決」です。だからこそ記者の間でも彼らは殿堂入りにふさわしいかどうかという議論起こり、これからも続くことでしょう。しかし記者たちにとっては残念なことに、その明確な答えを出すのは、世論の空気以上に、やはり記者の投票にならざるを得ません。堂々巡りはいつまでも続きます。

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[MLB短評] Braun turns Gray

ナ・リーグMVPのブラウン、ドーピング陽性(読売新聞) – goo ニュース
Braun faces possible 50-game ban for PEDs (MLB.com)
Braun deserves the benefit of the doubt (MLB.com)
Result is positively bad for baseball(ESPN)
If Ryan Braun’s positive PED test is upheld, baseball writers should demand re-vote for National League MVP (Seattle Times)
Even if NL MVP Ryan Braun is clean of PEDs, MLB never will be (FOX Sports)


ミルウォーキー・ブリューワーズがナショナルリーグ・セントラルの優勝を決めた9月23日、地元で行われた試合の8回裏、ブリューワーズの顔であるライアン・ブラウンがセンターへ試合と優勝を決める超特大のホームランを打った瞬間、誰もがブラウンがナショナルリーグのMVPに最もふさわしいと考えた人は数多いでしょう。自分もあの試合を生放送で見ていましたが、これでブラウンはドジャーズのマット・ケンプを差し置いてMVPを獲得する、そう感じました。そして実際にブラウンは2011年シーズンのMVPとなりました。これにより、ブラウンは友人でNFLグリーンベイ・パッカーズのQBアーロン・ロジャーズ同様、ウィスコンシンの顔から全米の顔へ変わりました。

だからこそ、今回ブラウンからステロイド剤の陽性反応が示されたというESPNの報道は、つい数日前にアルバート・プーホールズとC.J・ウィルソンと大規模な契約を結んだエンジェルズの話題が一気に霞むほどの威力を持っています。メジャーリーグはこの件に関してまだ正式な発表をしていませんが、ブラウンは既に不服申立てを出すことを考えているとも報道されているので、ブラウンがこの件に関連した50試合の出場停止を受けるかどうかはまだ決まっていません。現時点ではブラウンはグレーと呼ぶべきでしょう。

過去にもMVPを獲得した選手がヒト成長ホルモンを摂取していたことが判明したことは、残念ながら幾度かあります。アレックス・ロドリゲスもそうでしたし、ケン・カミニティに至ってはそれが遠因となり既にこの世にはいません。しかしこれまでのケースは、授賞後かなり後になってからそうした事実が発覚しました。今回はブラウンがMVPを獲得してから1ヶ月も経っていません。その上、ブラウンは選手からもメディアからも、そしてもちろんファンからも慕われる人格者として考えられています。ブラウンはシーズン途中に大型契約を結び、2020年までブリューワーズに在籍することになっています。ロドリゲスにしろ、同じく薬物使用が発覚した大スターであるマニー・ラミレスのような選手は、もう先が見えています。一方でブラウンはこれからの選手です。

ESPNによると、ブラウンは10月のプレイオフ期間中に薬物テストのために尿のサンプルを提出し、その結果としてテストステロンが検出されました。これを知ったブラウンは2度目の検査を要求したところ、そのときは陰性でした。2007年の新人王であるブラウンを始めとした同世代の選手は、マイナーリーグで現在メジャーで行われているような薬物テストの手続きを受けており、ブラウンもその手続きとそれによる結果を熟知していると考えられています。今回、ブラウンが故意で摂取したのか、何らかの形で混入されていたのかも含めて、今後ブラウンの行うであろう不服申立ての審理で明らかになるはずです。

ところで、今回の事件により2つの問題が議論されています。

1)ブラウンとプリンス・フィルダー抜きでブリューワーズは来シーズンの開幕後50試合どう戦うのか。
ブリューワーズはシーズン中にブラウンと長期契約を結んだ一方、プレイオフ敗退後にはもうひとりの主砲プリンス・フィルダーを放出することを決めました。名実ともにブラウンがブリューワーズの「プリンス」となるはずでした。しかし仮に出場停止が決まった場合、ブラウンが抜けた穴を埋められるほどの強打者がブリューワーズにはいません。もちろんこのような事実を予知してダラスでのウインターミーティングに臨んだわけではありません。

今シーズン開幕前、ブリューワーズは先発陣の強化で獲得したザック・グレインキーがキャンプ中にバスケットボールを行なっていた際に怪我をしたということで開幕から1ヶ月以上ローテーションにいれられませんでしたが、それでも何とかできたのは、ブラウンやフィルダーのような攻撃陣のおかげでもありました。今回の欠場はそれとは比べ物にはなりません。ブリューワーズは早くも優勝戦線から脱落した可能性すら考えられています。

2)ブラウンのMVPは剥奪されるべきか。またそうなった場合には再度MVP投票をすべきか。
今回、ブラウンは現行のメジャーリーグの薬物規定の下で違反を犯しながらもMVPを獲得しました。この点はそうした規定がなかったロドリゲスやカミニティとは大きく違う点です。かつ、ブラウンは一度目の検査で薬物陽性が出たことを知りながらも、それを公表しませんでした(その代わりに二度目の検査を要求し、陰性反応が出ました)。特に薬物使用に対してタカ派な意見を述べる記者は、ブラウンもメジャーリーグ関係者もその事実を隠したと見ており、だからこそMVPを剥奪されるべきと考えています。仮に今回ブラウンが黒判定を正式に受けた場合には、ブラウンがMVPでなくなっても仕方ないとは思います。

問題は、その結果空いたMVPの枠をどうするか、です。2位投票だったケンプに与えるのか、それとももう一度記者協会で投票を行い、新たなMVPを選出すべきなのか、ということです(その場合、どちらにしてもケンプがMVPを獲得することになるでしょう)。シアトル・タイムズのGeoff Baker氏は、この件に関して「MVPの再投票を行い先例を作る(create a precendent)」べきだと考えています。

If a guy tests positive before results are announced, make it clear that he will not be allowed to keep any award without it being put back in the hands of voters.

This isn’t revolutionary thinking. In the Olympics, medal winners are stripped of their medal awards all the time if they test positive. Sometimes, it takes years to do the retroactive thing.

Baker氏はメジャーリーグにつきまとう薬物問題は記者が広げているのではなくメジャーリーグが解決しようとしていないだけとしており、むしろ記者たちは殿堂入り選手の投票において薬物使用の問題を突きつけられているとしています。今回そのやっかいな仕事がMVPの投票にまで及び、「簡単な解決法」としてMVPの剥奪(それをオリンピックでのメダル剥奪と比較しています)再投票を提案しています。

しかしそこまでにしてMVPの枠を埋める必要があるのかなというのが個人的な意見です。今回のニュースが入ったときに思い出したのが、レジー・ブッシュの一件でした。ブッシュは2005年ハイズマン賞を獲得しながらも、不正な金銭授受が発覚したため、5年後にそれを返却するという形で賞を実質的に剥奪されました。その際に2005年のハイズマン賞をどうするかという議論も起こり、結局のところ他の選手、例えばビンス・ヤングが獲得するのではなく、空位となりました(ちなみに2011年のハイズマン賞がブラウンのニュースが流れた直後に発表されました)。

今回のMVP枠も、これと同じでいいのではないかと思います。仮にどういう形であってもマット・ケンプがMVPを獲得したとしても、ケンプ自身がそれを喜ぶのでしょうか(ケンプもこのニュースを知った時にがっかりしたと報道されています)。オリンピックのメダルは、ほとんどの競技において明確な記録を元に算出され、それにより違反行為が発覚したら自動的に繰り上がります。

しかしハイズマン賞にしろMVPにしろ、いずれも記録だけでなく記者や投票者の印象という不明確な要素により決定されます。少なくとも投票当時において、記者たちはブッシュやブラウンがヤングやケンプよりふさわしいと考えたのだから、それ自体は正しかったということにしたらいいのです。悪いのはブッシュやブラウンであり記者ではありません。再投票というやり方は、記者の行為を修正させて下さいというのに近く、それはこう言っては何ですが、ブラウンの2度目の検査と同じです。

逆にそうした例を今後作りたくないのであれば、記者たちが必死になって魔女狩りのごとく薬物使用の疑いがある選手たちを吊るし上げて、MVP候補を絞っていけばいいのです。ただしファンは薬物使用のニュース自体にはもはや激しい反応を示しません。今回ここまで話題になっているのは、ライアン・ブラウンだからなのです。

[MLB短評]Class Act

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Pujols’ gesture helps fans salute Prince (MLB.com)
Fielder ready to test the open market (Milwaukee Journal Sentinel)
Brewers have several holes that need to be addressed (Milwaukee Journal Sentinel)

ミルウォーキー・ブリューワーズが2011年シーズンのディビジョン優勝を決めた現地時間9月23日の夜、ファンがミラー・パークから帰宅しようとするプリンス・フィルダーのそばからなかなか離れなかったそうです。もちろんシーズンを通じて活躍したフィルダーをねぎらう気持ちがあってこそでもありますが、同時にファンはフィルダーがミルウォーキーから離れて欲しくないという気持ちを正直すぎる形で表していたのだと思います。

優勝が決まる数日前、フィルダーは今シーズンがミルウォーキーでの最後であると自ら語ったと報道されました。なぜそうした発言をあえて行ったのかは本人のみ知るところでしょう。しかし、ブリューワーズのもうひとりの「プリンス」であるライアン・ブラウンが今シーズン途中に長期契約を結んでもらったのとは対象的に、チームはフィルダーへはなかなかオファを出そうとはしませんでしたし、今もその様子はありません。その中でフィルダーはチームは自分を評価していないのではないかと考えるようになった、というのが一般的な見方です。

フィルダーはポストシーズンも活躍をしました。ナショナルリーグのチャンピオンシップ第1戦、5回裏に右中間へ放った一発はブリューワーズのファンならばきっと忘れることはないでしょう。その活躍はカーディナルスのアルバート・プーホールズと同じく、ワールドシリーズ終了後、フリーエージェント市場での「活躍」をも保証するかのようでした。しかしチャンピオンシップの後半、カーディナルスはポストシーズン打率5割のブラウンで勝負を決するのは半ば諦め、フィルダーへのマークが厳しくなり、思うようなバッティングをさせてもらえませんでした。シリーズ通じて不安定だった先発陣、第5戦、第6戦でのお粗末すぎる守備もさることながら、ブリューワーズのチャンピオンシップ敗因の要因は、フィルダーがシリーズ後半で抑えられたことにも尽きます。ただしそれはフィルダーが怖い打者ゆえ受ける試練でもあるのです。

大量点差が付いたミルウォーキーでの第6戦の8回裏、先頭打者としてフィルダーが打席へ向かいました。その前からファンは立ち上がってフィルダーの姿をカメラに収めていました。そしてフィルダーは「ブリュークルー」として最後の打席に立ち、1球目を待とうとしました。そのときタイムが掛かりました。それを求めたのはプーホールズでした。それはブラウンいわく”Crazier things have happened”と呼ぶほどのことです。

プーホールズは今シーズン開始前からフィルダーと同じように今シーズン終了後の動向を注目され続ける中、チャンピオンシップまで勝ち上がりました。プーホールズにはフィルダーの気持ちも、フィルダーに離れて欲しくないというファンの気持ちもわかるのでしょう、試合後このタイムについて次のようなコメントをしています。

I’ve been in that situation in St. Louis with the best fans in baseball, and I wanted Fielder to get a great standing ovation. He’s done so well for this organization, and I’m pretty sure he’ll be back.

そのようなプーホールズのコメントに反して、ファンもメディアも、そしてチーム社長も、フィルダーは来年ミルウォーキーでプレイしないことは覚悟しています。それどころか、地元メディアでは早くもフィルダーが去った後の資金をどのように有効活用して、内野の守備の強化とブラウンの後ろを打つ選手を獲得すべきかが焦点となっています。

ただ、現実的な問題は別としても、プーホールズが行ったさほど大げさではないジェスチャーは、プーホールズの大きな心となぜプーホールズが既に偉大な選手なのかを表現していると思います。それは真似しようと思ってもできないくらいの自然な行為、本当の敬意から生まれた行為なのでしょう。ブリューワーズのファンは、特にこの第6戦のほとんどをカーディナルスとブリューワーズ両方に対してイライラする時間を過ごしましたが、このひとときだけは救われたように思えました。CrazierでもありGreaterな瞬間でした。

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