[半周遅れのスーパーボウル48 その2]納得できない1プレイ

Peyton Manning falls flat in Super Bowl XLVIII rout – NFL.com (2014.2.2)
Denver Broncos never found the answers in loss – ESPN (2014.2.3)
Denver Broncos offseason outlook: What awaits Champ Bailey, Eric Decker | Audibles – SI.com (2014.2.3)

シアトル・シーホークスが守備から試合を作るチームだとすれば、デンバー・ブロンコスは攻撃から、もっといえば、ペイトン・マニングのコールから試合を作るチームだと言えます。それゆえ、プレイオフ期間中に”OMAHA!”と叫び続けたことが注目を浴びたのかもしれません。ブロンコスの、というよりマニングのオフェンスは、一種のオーケストラだと言えます。もちろん、どのチームのオフェンスもQBが指揮をし、他の選手がそれにしたがって動くわけですが、マニングという指揮者は、オフェンスラインの細かい動きをも制御でき、かつ、相手の布陣によってその音色を変えることも容易にでき、他の選手達はそれに対して完璧なまでの動きを見せてくれます。

第48回スーパーボウルにおいて、コイントスに負けたブロンコスは、前半の攻撃権を得ました。マニングが強力なシーホークス守備陣、特に強力なDB陣を相手にして、どのようなプレイを展開していくのか、コイントスからブロンコス最初のスナップまでの、決して長くない時間に、スタジアムのファンも視聴者もいろいろなことを思い描いていたことでしょう。

しかし、第48回スーパーボウルは、その試合結果と同じくらい、予想外なプレイで始まりました。センターのマニー・ラミレスの早まったスナップによるセーフティ(以下にあるように、記録上はファンブル)。スーパーボウルでは試合開始から最短での得点、そしてマニングが指揮をするオフェンスおいて最も考えられないプレイが、ブロンコスのコーチ陣が築きあげたゲームプランと、2週間温め続けてきた人々の期待を打ち砕きました。そして、たった試合開始12秒でブロンコスの攻撃は機能不全に陥りました。
1-10-DEN 14 (14:53) (Shotgun) 18-P.Manning Aborted. 66-M.Ramirez FUMBLES at DEN 14, recovered by DEN-27-K.Moreno at DEN -8. 27-K.Moreno tackled in End Zone, SAFETY (56-C.Avril). Penalty on DEN-18-P.Manning, Illegal Motion, declined.
20140202 マニング

このプレイは、今回のスーパーボウルを象徴するプレイのひとつとなりましたが、それ以上に納得がいかないプレイが前半終了直前にありました。インターセプトリターンTDを奪われた直後、22対0という誰もが予想しないスコアで迎えた前半最後のオフェンスシリーズです。ブロンコスは残り3分16秒で自陣33ヤードから攻撃権を得ました。レギュラーシーズンのマニングのオフェンスであれば、ここから時間を目いっぱいに使って、TDを奪うことができる時間帯と残りヤード数です。その思い通り、マニングはショットガンとノーハドルのオフェンスを駆使し、ジリジリを歩を進めました。しかし、残り時間1分16秒、相手陣26ヤードのところまできて、ブロンコスは3rdダウンを更新できませんでした。一方で1stダウンまでは2ヤード。ここはFGを蹴るかどうか悩みどころであるのですが、この場面でシーホークスがタイムアウトを使いました。

タイムアウト後、マニングたちはオフェンスの布陣を敷き、4thダウンを狙うこととなります。これ自体は正解だと思いました。恐らく、マニングお得意のハードカウントでディフェンスのオフサイドを誘い、1stダウンを奪うのだろうと考えていました。しかし、マニングはプレイクロック残り7秒の時点でプレイを始めました。結果は平凡なパス失敗となりました。

この場面では、ブロンコスは結果的に得点を挙げられなかったどころか、1stダウンを奪うことすらできませんでした。ただ、その結果よりもその過程に疑問を感じました。マニングらしいオフェンスを見せながらも、ここでもうひと押しできなかった時点で、試合のモメンタムがブロンコスへ流れることはないだろうと感じるには容易なものでした。後半直後にブロンコスがキックオフリターンTDをパーシー・ハーヴィんに奪われて、それは確実になりました。

22対0となったとき、球団社長のジョン・エルウェイはこのようなことを考えていたようです。

Just got to figure out a way to get things turned around. But I’ll tell you this: It’s hard to get momentum turned around against a great defense like this and they are a great defense, and that’s why you can’t afford to lose momentum, because to try to flip it against a great defense, it’s hard.

どうも、ブロンコスとしては、あのシーホークスの守備を見せつけられた中では、試合の主導権を奪うことはできないと早々に悟っていたように感じられます。この4thダウンのプレイが、ブロンコスの苦悩を表していたのかもしれません。

マニングがすべての敗戦の責任を背負わなければならないわけではありません。首の手術から復活し、記録ずくめのレギュラーシーズンを経て、スーパーボウルまで来たことは、驚異的なことだとも言えます。そして、マニングはスーパーボウルの前日に5度目のシーズンMVPを贈られました。しかし、マニングは肝心のスーパーボウルにおいて、いつもどおりのことが全くできませんでした。インターセプトされたプレイと同じくらいこの2ヤードのプレイがそれを表しているように思えます。
20140202 マニング

[半周遅れのスーパーボウル48 その1]New Normal

Seattle Seahawks stomp Broncos for Super Bowl win – NFL.com (2014.2.2)
Seattle Seahawks’ dominant defense: A frightening ‘new normal’- NFL.com (2014.2.3)
Kam Chancellor was most deserving of Super Bowl MVP honors | The MMQB with Peter King (2014.2.6)
Seahawks’ defense too fast, too furious for Broncos in Super Bowl – The Denver Post (2014.2.2)

第48回スーパーボウルから1週間が経過してしまいましたが、改めて振り返りたいと思います。

初のニューヨーク、それも寒空の下、屋外のスタジアムで行われるスーパーボウルは、いつものスーパーボウル同様、試合前から様々な予想がなされました。ペイトン・マニング率いるデンバー・ブロンコスのオフェンスは寒さの中でどれだけ機能するのか、というところから、スーパーボウル当日は大雪になるのではないかと、想像するネタには絶えないものでした。

いざ試合が終わってみると、全くもって予想外の結果となりました。一つ目は気温。マイナス10度以下をも記録したこの冬のニューヨーク(正確にはニュージャージーではあるけど)において、スーパーボウルの試合開始時の気温は、華氏49度(摂氏9.4度)でした。この時期のニューヨークの夜の気温としては、十分に暖かいものです。

そしてそれ以上に予想外だったことは、その試合内容でした。スーパーボウルの予想においては、願望も込めて接戦の結果を弾き出すものです。それがまさかの、シーホークスがブロンコスを圧倒した形での勝利するとは、シーホークスの勝利を予想した評論家ですら考えていなかったことでしょう。そのスコア43対8。マニングのオフェンスをもってしても、シーホークスのディフェンスをこじ開けることは、試合終了までできませんでした。

しかし、NFCプレイオフ第1シードのシーホークスは、AFCプレイオフ第1シードのブロンコスに対して、何か特別なことを仕掛けて勝利したのかというと、決してそうではありませんでした。特に、シーホークスのディフェンスは、マニングを抑えるためにごくごく当たり前なプレイで対応し続けました。それは、ディフェンスラインがマニングにプレッシャーを与え続け、LBやDB陣はマニングにパスを通させても、パス後のラン(いわゆる「ラン・アフター・キャッチ)を許さないことにありました。

マニングはこの試合において49回パスを投げて34回パスを成功させました。これはスーパーボウル記録です。しかし、スーパーボウルを見た後で人々の記憶にあるのは、マニングのパスの数ではなく、シーホークス守備陣がボールを持つブロンコスの選手に対して素早く集まる光景(swarm)であり、DB陣のハードヒットでした。それにより、10ヤードはブロンコスのオフェンスにとって長い距離となりました。1stクォーター早々に出たこのプレイは、この試合を象徴し、かつ残り時間を支配するものになったと思います。
2-7-DEN 38 (9:53) (No Huddle, Shotgun) 18-P.Manning pass short middle to 88-D.Thomas to DEN 40 for 2 yards (31-K.Chancellor).
このキャム・チャンセラーのハードヒットは、シーホークス守備陣のフィジカルさを表していました。このプレイについて、試合後、チャンセラーはこのように語っています。

まさにそのとおりだったと思います。ブロンコスのオフェンスは、これに怖気づくことはなかったにしろ、この試合を通じて、シーホークスの激しいヒット、ボールへの素早い集まりに悩まされ続け、かつ、そこに解決策を見出すことはできませんでした(後半、ブロンコスがこの試合唯一の得点となったTDを挙げたシリーズがありましたが、あのシリーズでは、シーホークスのディフェンスは、言葉は正しくないですが、本気を出していませんでした)。

でも、シーホークスのディフェンスはマニングに対して何かを合わせてきた様子には見えませんでした。チャンピオンシップからスーパーボウルまでの期間中の主役だったリチャード・シャーマンが、スーパーボウルの2日後、自分たちはマニングのパスルートを読むことができていたと発言しましたが、それが本当だとしても、シーホークスのフィジカルなディフェンスは、いつもどおり(normal)なもの、もっといえば、FSのアール・トーマスがいうところの”new normal”だったと言えるでしょう。

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* ブロンコスの80番 ジュリアス・トーマスのパスキャッチ後、1stダウンを許さなかったシーホークスディフェンス

一方、そのディフェンスの活躍に見過ごされ気味のシーホークスのオフェンスもまた、マニングへの正しい対処法を備えた上で試合の主導権を握りました。これもまた、特に変わったプレイを仕掛けたわけではありませんでした。シーホークスは、思いもよらぬ形で試合開始早々に2回も攻撃権を得ることになりましたが、その2シリーズにおいて、シーホークスは10分40秒に渡りボールを保持し続けました。特に2回目のドライブでは、QBラッセル・ウィルソン率いるオフェンスが効果的に3rdダウンを更新し続けたことが大きかったと言えます。特にこのパスは、マショーン・リンチのランやウィルソンのスクランブルあるいはショートパスを警戒して、前のめりになっていたブロンコスのディフェンスの心を挫くのに効果的でした。そして、ウィルソンのパスのコントロールもまた素晴らしい物がありました。

3-5-DEN 43 (4:26) (Shotgun) 3-R.Wilson pass deep left to 89-D.Baldwin to DEN 6 for 37 yards (24-C.Bailey).
Super Bowl XLVIII - Seattle Seahawks v Denver Broncos

この展開は、AFCチャンピオンシップにおいてマニングがニューイングランド・ペイトリオッツのトム・ブレイディに対して行ったことと重なります。この試合、特に後半最初のドライブはその象徴と言えますが、マニングはペイトリオッツへ攻撃権を与えないような形でオフェンスを展開していきました。その結果、例えば3rdクォーターにおいては、ブレイディはその2/3をサイドラインのベンチに座って試合展開を見るか、肩慣らしのキャッチボールをするしかありませんでした。スーパーボウルでは、ウィルソンがマニングに、マニングがブレイディに取って代わりました。

しかし、さらにすごいと思ったのは、後半のシーホークスのオフェンスが全く手を緩めなかったことです。あの試合の流れを考えた場合、ランで時間を稼ぎながらある程度前へ進ませて、最低でも3点、うまくいってTDを取りに行ってもおかしくありませんでした。特に後半のキックオフで、パーシー・ハーヴィン(試合前半のリバースプレイを含め、この試合で攻撃陣のキープレイヤーとなりました)がリターンTDを決めて、得点差を広げたこともありました。それでも、シーホークスは心身共に疲れきったブロンコスのディフェンスを手玉に取り、TDを重ねていきました。

この試合では、シーホークスの素晴らしいところだけがニューヨークのネオンに照らし出さました。鮮やかなほどの圧勝、接戦になる瞬間は全くない、シーホークスはシーズン最後にして最高の試合、そしていつもどおりのことをしっかりと行うことができました。
Spokesman Review 20140203

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