[ナショナルリーグ・チャンピオンシップ第5戦]Thank you Barry much!


Zito leads the way as Giants stay alive in NLCS – MLB.com (2012/10/20)
Zito redeems himself, saves Giants – SFGate (2012/10/20)
Little things add up to Giants’ biggest inning of Game 5 of the NLCS | MLB.com: News

敵地での先発し合いを前にして、サンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ジトは、セントルイスで投げることについてこのように語っていました。


セントルイス・カーディナルスに王手を許したジャイアンツは、現時点ではリーグチャンピオンシップで最も重要かつ負けられない試合に、ジトをマウンドへ送りました。2006年のオフ、サンフランシスコの隣にあるオークランド・アスレチックスから高額な契約金と共にサンフランシスコへやってきたジトは、その金額に似合わない結果を残し続けました。ジトは2010年のポストシーズンには、ワールドシリーズのメンバーにすら入れず、2011年にはマイナー生活も経験しました。ジトの背番号75は日に日に小さくなっていきました。

2012年のジトはシーズン中に15勝8敗の成績を上げ、かつてほどではないにしろ、信頼を取り戻すには十分な数字を残すことができました。そしてこの絶対に負けられない試合でジトはかつての輝きを取り戻しました。ジトは8回2/3までカーディナルス打線を抑えこみ、赤い服を着た、メジャーリーグの中でも屈指の熱心さを有する4万人以上のファンを黙らせました。カーディナルスの選手たちはスタジアムで直接の応援をもらう一方、ジトはツイッター上で”#RallyZITO “というハッシュタグの応援を受けました。ジトはこれにも十分助けられたらしく、試合後このように語っています。

I’m excited fans are fired up and they’re going to bring all that momentum into our stadium.

この日のジトは、当然ながらマウンド上では完璧なほどの働きをしました。それがジャイアンツの守備陣にも好影響を与えられ、ジトはそれらにも助けられました。5回裏に出た、ライトのハンター・ペンスのスライディング・キャッチはその中でも象徴的なものでした。ブッシュ・スタジアムの芝生をえぐるほどに芝生を抉りながらも、ペンスがボールに飛びついた瞬間、スタジアムは静まる他ありませんでした。打撃面では不調が続くペンスは、このシリーズの試合前に、円陣の中心でペップトークをして選手たちを鼓舞していますが、この試合では自らの十八番である全力プレイで、ジトとジャイアンツを鼓舞しました。

また、ジトはマウンドだけでは物足らず、打席でもチームへ貢献しました。ジトは最初の2打席で見事なバントを見せました。最初の犠牲バントは、結果的には得点には繋がりませんでしたが、緊迫したシリーズでのバントのお手本と呼べるものでした。一方、4回裏2アウトで見せた三塁線へのプッシュバントは、カーディナルスの三塁手、デイビッド・フリースが慌てて1塁へ高い珠を投げ込むほど、誰もが驚くくらい素晴らしいものでした。ジトは、カーディナルス先発のランス・リンから多くの点を奪えないと踏み、かつここはバントをすべき状況だと判断して、あのようなプレイを出しました。これにより、リンは降板させられたのだから、ジトはリンに投げ勝っただけでなく、読み勝ちまでもしました。

I knew I didn’t have much of a chance hitting off Lynn. But I saw a situation where I could possibly get one down and get another run in, so I tried it.

多額の契約金でジャイアンツに移籍後、多くの批判や、もうジトの時代は終わったという声にも拘わらず、ジトはそれに声を荒げることもなく、熱心に練習をし、自分の機会を待ちました。2010年のポストシーズンにブルース・ボーチー監督がジトにロースターから外れるよう言い渡した時も、ジトはいつでも投げられるようにブルペンでの練習を怠らなかったといいます。それから実際にポストシーズンで必要とされるまで2年かかりましたが、ジトはその役割を十二分に果たしました。

一方、ナショナルリーグのチャンピオンシップは、カーディナルス3勝2敗の状態でサンフランシスコに戻ります。カーディナルスのフリースは、”San Francisco is a great city, but I wish we weren’t going back.”と語っていますが、フリースの意思に拘わらず、カーディナルスはサンフランシスコへ戻ることになります。そんなこのシリーズを観ていると、ひとつのプレイで試合の流れを左右することはあっても、それがシリーズの流れを決めるほどにはなっていないように感じます。

例えば、ジャイアンツがこのポストシーズンで初めて地元で勝利を収めた第2戦では、初回に、カーディナルスのマット・ホリデーが、ジャイアンツのショート、マルコ・スクータロが倒れこむほどの二塁へのスライディングをしたことが、ジャイアンツの士気を高めました。第3戦では、膝の怪我で途中欠場したカルロス・ベルトランの後を受けたマット・カーペンターのソロホームランにより、カーディナルスが流れを掴みました。

そして第5戦では、4回裏に出たカーディナルスのわずかな守備の乱れがジャイアンツへ試合の主導権を渡すきっかけになりましt。1アウト1・2塁の場面で、ペンスの放った当たりは、ピッチャーのリンの前へのゴロでした。そこでリンは一塁ではなく二塁でランナーを刺そうとしますが、ショートのピート・コズマのベースカバーが遅れました。投げる相手が存在しないような中でリンが投げたボールは、二塁ベースに当たり、センターへ転がっていきました。記録上はリンの送球エラーとなり、この後ヒットとジトのバントヒットにより降板するきっかけになりましたが、一方のコズマも”I was late covering the bag.”と自らの非を認める結果になりました。

どちらのチームも、ポストシーズンここまで粘りで勝ちあがりました。だからこそシリーズ全体の流れというものは生まれにくく、同時に1試合の中でのわずかなプレイや選手起用が、試合全体の流れを決めるものになっているように感じます。カーディナルスはワシントン・ナショナルズとのシリーズ最終戦の9回表、2アウトから逆転をしました。ジャイアンツはシンシナティ・レッズとのシリーズで、地元で2連敗後、敵地で3連勝しました。その経験から、カーディナルスはあと1勝というものの重要性をわかっているだろうし、ジャイアンツは、自分たちならあと2勝できるという前向きな気持ちを備えています。

サンフランシスコでの第6戦は、ジャイアンツが地元で粘りを見せるのか、それともカーディナルスがその粘りを振り切ることができるのか、というところでしょう。ここまで勝っても負けても先発陣の調子が良くないカーディナルスは、前回の登板で4回しか保たなかった先発のクリス・カーペンターが第6戦で本来の投球を行い、これ以上の無駄がない形でデトロイト・タイガースを迎え撃ちたいと考えることでしょう。一方、ジャイアンツは不調なバスター・ポージーとペンスの復活が必須です。そして、先発が予想されるライアン・ボーグルソンはファンの応援とチキンエンチラーダの力を借りて、負けられない試合に挑みます。