[NFL短評]The bad call heard around the world

Debated Hail Mary gives Seattle Seahawks win over Green Bay Packers – NFL.com (2012/9/24)
Dissecting the Seahawks-Packers final play – Seattle Times (2012/9/25)
Web explodes over replacement refs call against Packers – ESPN (2012/9/25)
NFL supports decision to not overturn Seahawks’ touchdown – NFL.com (2012/9/28)
Packers-Seahawks call underscores need for real refs to return – NFL.com (2012/9/25)
Obama: Disputed game means NFL needs regular refs – NFL – SI.com (2012/9/25)

プロスポーツ、特にチームスポーツの試合を構成するにあたり重要な要素は何でしょう?

ひとつは一流の選手。これは言うまでもありません。彼らはその持ちうる力、いや持ちうる以上の力を試合内で発揮します。彼らはそのために絶間ぬトレーニングを怠りません。

もうひとつは一流の監督とコーチ。彼らには選手が持つ能力を引き出し、性格の違う選手たちをまとめあげ、そしてチームを勝利へ導く力が要求されます。選手がトレーニングをするように、監督やコーチたちは戦術に研究を怠ることはありません。

そして実際の試合で重要となるもうひとつの要素が、一流の審判です。審判には公平かつ公正、どのような状況でも沈着冷静でかつ正確性を伴う即決即断の能力が要求され、試合を開始から終了まで滞りなく進ませることが要求されます。

それでも、実際には試合は人間が行うものである以上、ここに挙げられた要素すべてが100%の能力を発揮するとは限りません。選手はプレイでミスを犯したり、けがをすることもあります。コーチたちが練り上げた戦略は相手の戦略に負けたり、選手の入れ替わりなどでその変更を迫られることがあります。審判だって、試合開始から終了まで、シーズン開始から終了まで、完璧なジャッジができるわけではなく、いつ、どこかで間違えを犯すことだってあります。一方で戦略や能力を超えるプレイにより試合が決まることもあります。全てが予定通りにいかない、だからこそスポーツの面白さがあるのだと思います。

しかし、今のNFLではこの三位一体のうちのひとつを欠いた状態で成り立っています。一流の審判です。昨シーズン開幕前、NFLは労使問題を理由に選手会をロックアウトし、開幕そのものが危ぶまれました。今シーズン、NFLは労使問題(年金積み立てや契約金額という金銭面の折り合い)を理由に審判組合をロックアウトしたまま開幕を迎えました。当然、審判がいなければ試合は成立しませんので、リーグは「代理審判」(replacement referee)を立ててプレシーズン、そしてレギュラーシーズンを進めることとしました。

NFL JAPAN.COM|リプレイスメントはNO!一流の試合には一流のジャッジを [近藤 祐司](2012/7/20)

今シーズンの優勝チームはどこか、ロバート・グリフィンやアンドリュー・ラックはどこまでNFLで戦うことができるかという期待と共に、果たして「代理」審判がフットボールの、というよりNFLの複雑なルールを理解しているのか、そして選手たちから信頼を勝ち得て試合を運営できるのか、そのような心配も抱えながら、NFLは開幕を迎えました。

正直なところ、個人的にはこの代理審判に関してはそこまで心配をしていませんでした。というより、多くのファン同様にそれほどの関心を払っていなかったと言ってもいいです。それ以上にNFLの開幕自体が楽しみでしたし、ロックアウト中の正規審判(regular referee、という呼び名がいつの間にか定着してしまった)だってこれまでいろいろとミスをしてきたのだから、代理審判は正規審判が帰ってくるまでそれなりにがんばってもらえれば十分じゃないか、と楽観視していました。

しかし、そうした代理審判への楽観視も、新しいシーズンへの高まりも、全て代理審判が打ち崩してくれました。多くの人は、開幕週に関しては大目に見ていたと思いますが、その堪忍袋の緒は2週目にして切れました。

NFL JAPAN.COM|不安が現実に!窮地に立たされた“代役審判” [近藤 祐司](2012/9/21)

このコラムにも書かれているように、とにかく代理審判はNFLの試合とルールに不慣れで、かつそれと同じくらいにフットボールのルールにすら不慣れなのではないかと思えてきます。そういうものは、恐らくはジャッジに対する自信のなさから来ているのでしょう。それでも、何度も審判が協議したりビデオを見たりして、ジャッジがひっくり返される事態を見るにつけ、この審判団の下すジャッジに対する不安が募ってきます。そして不安はそのまま、代理審判とNFLに対する不満へと繋がっていきます。試合後、選手やコーチからは決まって代理審判への文句が出てきます。

こうした問題が出てきた場合、通常は何が問題かを精査して、次のときまでには改善が図られるはずです。しかしNFLの見解は「正規の審判でもミスをするのだから、代理審判でも問題はない」というものでした。NFLとしては、労使問題で対立する正規の審判を閉めだしてまで代理審判を使っている以上、そう言わざるをえないところもあるです。一方でNFLは、現地9月23日夜の試合で、ニューイングランド・ペイトリオッツのビル・ベリチックHCが試合終了直後に審判の一人の肩に掴みかかるまでに、この問題が広がっているとまでは予想しなかったでしょう(ベリチックは審判に何かしようとしたのではなく、説明を求めようとして肩に手がかかったと主張)。

このベリチックの事件は序の口以前でした。それからほぼ24時間後、NFLの歴史に残る疑惑の判定、もっといえば「誤審」が発生しました。それが全米向けに、そしてローマ法王も見ていると言われているマンデーナイトのグリーンベイ・パッカーズ@シアトル・シーホークスの試合終了直前に出たこのプレイでした。

4-10-GB 24 (:08) (Shotgun) 3-R.Wilson pass deep left to 81-G.Tate for 24 yards, TOUCHDOWN [52-C.Matthews]. The Replay Assistant challenged the pass completion ruling, and the play was Upheld.Highlight Video

まさにこのプレイが、というよりこのプレイに対するジャッジが、パッカーズが勝利しかけたこの試合の結果を変えました。この試合において、パッカーズのQBアーロン・ロジャーズは、前半だけで8回もサックを浴びました。パッカーズはそこから巻き返し、逆転勝利を収めて、意気揚々とスタジアムを後にしようとしました。しかしロジャーズをはじめとしたパッカーズの面々は意気消沈することを忘れるほどのこみ上げる怒りの中、スタジアムを去らなければなりませんでした。ガードのT.J・ラングの一言が全てです。

問題となった11秒間のプレイについては、シアトル・タイムズが事細かに紹介しています。

・もともと右へロールアウトするはずだったシーホークスQBラッセル・ウィルソンが左にロールアウトした
・最後のTDパスを取った(とされる)WRゴールデン・テイトは、エンドゾーンへ走りこむ前にディフェンスの選手を妨害していた(本来ならそれにより無資格補給者になるはずだった)
・エンドゾーンでテートとパッカーズの選手たちによる「同時捕球」(Simultaneous Catch)が起こり、ルールに則り攻撃側の捕球が認められた

Rule 8, Section 1, Article 3, Item 5
Simultaneous Catch. If a pass is caught simultaneously by two eligible opponents, and both players retain it, the ball belongs to the passers. It is not a simultaneous catch if a player gains control first and an opponent subsequently gains joint control. If the ball is muffed after simultaneous touching by two such players, all the players of the passing team become eligible to catch the loose ball.

自分がこのリプレイを見た時、どこが「同時捕球」なのかと直感的に思いました。明らかにパッカーズのM.D.ジェニングスが先に確保しているように見えます。その時には”It is not a simultaneous catch if a player gains control first and an opponent subsequently gains joint control.”になります。

それはともかく、ここで注意して欲しいのは、テートの妨害行為がなかったと仮定して、もし正規の審判がこのプレイをジャッジしていたとしても、その結果はどちらに転んでもその夜のESPNのトップ項目になっていたということです(きっと正規の審判であれば、テートの妨害に対して反則をとっていたことでしょう)。そして翌日、NFLはこのプレイについて何らかの説明を求められたことでしょう。今回、NFLはこのプレイを見直した結果、以下のように判断をしました。

The result of the game is final.

でも、正規審判がふつうに試合に立っていた場合、この試合のこのプレイは、よくある疑惑の判定のひとつとして、すぐに忘れ去られるものになっていたはずです。ところが、この盛り上がりはスーパーボウル直後を想起させるものがあります。この日の夜、国連総会で演説したオバマ大統領までもがツイッターで以下のようなコメントを寄せたほどです。

なぜここまでの騒動になったのか、それはひとりの審判がパス失敗と言いながらも、もうひとりの審判が両手を高々と上げてタッチダウンを示した、あの一瞬にあったと言えます。あれが開幕以来多くの人々が気づいていたことの全てを表現しています。代理審判は信頼できない、ということです。そして同時に、これは正規審判との労使交渉の解決を渋り、いつまでも代理審判を使い続けるNFLへ不満をぶつけるのに格好の材料にもなりました(そのことは、現時点でも十分な保障を与えられながらも、さらに多くを求める正規審判側へも矛先が向けられるべきことです)。NFLにとってここまでのできごとは「想定外」だったのかもしれませんが、ジャック・ウェルチは現地25日の朝、危機管理の面からNFLの対応に対して厳しい判断を下しています。NFLは一流の選手のプレイと一流の戦術家が繰り出す試合に対して、質が落ちるとしても、形だけ審判を置こうという誤った考えを持っていたのです。

そのような中、ようやくNFLと審判組合が歩み寄りを見せ、ロックアウトが終息する見込みというニュースも流れています。文字通り全米中を支配したこの労使問題は解決に近づいています(その意味では、大統領の一言は大きかったのかも知れません)。一方で、あの試合で悲劇を味わったパッカーズも前進のときを迎えようとしています。

今回の代理審判問題、正規審判とリーグの労使問題、そしてマンデーナイトのラストプレイは、一流のプロスポーツの試合において何が重要なのかを改めて考えさせてくれました。選手・監督・審判全てが不可分なのです。そしてそれらがあるところに初めて、一流のプロスポーツを構成する最後のピース、ファンが集まるのです。

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