[MLB短評]First game, last game – ナショナルリーグ・ワイルドカード

Call of the Wild: Cards earn berth in NLDS – MLB.com (2012/10/5)
Infield fly ruling disrupts Cardinals-Braves Wild Card game | MLB.com: News (2012/10/6)
Bodley: Disruption caused by infield fly ruling will leave lasting impression | MLB.com: News(2012/10/6)
Chipper Jones on loss in his finale: ‘Ultimately I’m to blame’ | Jeff Schultz (2012/10/5)

メジャーリーグ初となるワイルドカード2チームによる1試合のプレイオフ、セントルイス・カーディナルス@アトランタ・ブレーブスは、様々な意味で歴史に残る試合となりました。試合後、カーディナルスのカルロス・ベルトランは1試合でのプレイオフに関して「どんなことも起こりえる(Anything can happen)」と話していますが、むしろいろんなことが起こりすぎた試合でした。

チッパー・ジョーンズは、この試合の重要性を他の誰よりも知っていました。ジョーンズはこの試合の前に、先取点を取ったチームがこの試合をものにするだろう、と語っていました。レギュラーシーズンの3連戦あるいは5戦制のプレイオフと違い、この試合でポストシーズンでの生死全てが決まるわけであり、先にモメンタムを奪った方がこの試合の主導権を奪うことができる、と考えていたのでしょう。この試合は大げさに言えばワールドシリーズの第7戦と同じだとも考えられます。

その意味では、2回表にカーディナルスのヤディアー・モリーナがライトに打ち上げた当たりを、ブレーブスのジェイソン・ヘイワードが獲ったシーンは、この試合の重要性を地で行くものでした。


そしてその裏にデビッド・ロスがレフトへ2ランホームランを放ち、ジョーンズが願っていた先取点をブレーブスにもたらしました(このとき、ロスはホームランの前の投球直前にタイムを要求し、受け入れられました。そのボールはストライクで、本来ならロスは三振になっていました)。

しかし、3回裏、4回表、4回裏の展開がこの試合を決めたといえるでしょう。そしてその中にこの試合が歴史に残るものになる要因が含まれていました。

3回裏、先頭打者で俊足のマイケル・ボーンがヒットで1塁に進みました。しかし2番打者のマーティン・プラドは犠牲バントができず結局三振。その後のヘイワードとジョーンズはフライとゴロで凡退しました。その間、ボーンは盗塁をする素振りもみせられず、ブレーブスのベンチも特段動く気配を見せず、カーディナルス先発のカイル・ローシを揺さぶることができませんでした。それは同時に、後の試合展開により埋もれてしまったことですが、ローシとモリーナのバッテリーがボーンをうまく1塁に釘付けしたことを評価すべきです。


文字通り「ワイルド」な試合の中で好投したカイル・ローシ

この回が試合の流れを変えました。ベルトランの何気ないライト前ヒットで始まった4回表は、マット・ホリデーの放った併殺を奪える3塁ゴロが、チッパー・ジョーンズの悪送球によりカーディナルスへモメンタムが一気に動きました。カーディナルスはこの回に3点を奪い逆転します。堅守で勝利を重ねてきたブレーブスは、この試合では集中力を欠く守備が目立ちましたが、その中でもこの悪送球は象徴でした。それを歴史的な悪送球にまで高めてしまったのは、この試合が現役で最後になったジョーンズがエラーをしたことでした。ジョーンズは試合後このようなコメントをしています。

There are a lot of guys in [the clubhouse] laying blame. But I kept my mouth shut because ultimately I’m to blame. That ball was tailor-made for a double play.


エラー直後のチッパー・ジョーンズ

この重い空気を抱えながら4回裏となりました。ブレーブスは1アウト1・3塁で得点のチャンスを迎え、打席にはアンドレルトン・シモンズが立ちました。シモンズは初球をバントしました。ゴロを捕ったローシは1塁へ悪送球をした、と思われましたが、シモンズは本塁-1塁ラインの内側を走り、守備妨害を取られアウトになりました。結局ブレーブスはこの回無得点で終わり、モメンタムを奪い取ることができませんでした。

そして、問題の8回裏を迎えます。ジョーンズは先月、1試合だけ行われるこのプレイオフについて「馬鹿げている」(stupid)と話して、1試合では審判によるミスジャッジ(blown call)で試合が左右しかねず、3試合制でのプレイオフを行うべきだと「予言」をしていました。

I think it’s more fair from a standpoint that anything can happen in one game – a blown call by an umpire, a bad day at the office … at least in a two-of-three-game series you have some sort of leeway.

まさかジョーンズはこのような事態が本当に起こるとは思っていなかったでしょう。ちなみにこのコメントは、NFLの代理審判が「あの」9月24日に行われたマンデーナイトの試合で物議をもたらすジャッジをする前に行われました。

このプレイオフの8回裏に起こったことは、正規のメジャーリーグの審判による判断でした。3点差を追うブレーブスが1アウト1-2塁の場面、シモンズがレフトとショートの間にフライを打ち上げました。しかしレフトのホリデーもショートのピート・コズマも取れずボールはフィールドに落ちました。1アウト満塁、ブレーブスは同点あるいは逆転のチャンスを迎えた、と思った瞬間にテレビに映ったのは、ブレーブス監督フレディ・ゴンザレスが監督に抗議するシーンでした。レフト線審のサム・ホルブルックがこのフライをインフィールドフライとしたため、打者はアウトになったのです。


マット・ホリデーとピート・コズマの間に落ちたこのボールはインフィールドフライ?

インフィールドフライというルールは、サッカーで言うところのオフサイドと同じくらい、野球のルールの中で最も複雑なものと言ってもいいものだと思います。しかしワンアウト満塁の機会を奪われた観客の怒りは非常にわかりやすい形で現れました。外野に様々なものが投げ込まれたため、試合は19分間中断となりました。そして、ホルブルックの一瞬の判断は、当然ながら物議を醸し出すものとなりました。長年メジャーリーグを取材するハル・ボドリーは驚きをもってこのように書いています。

There was an obvious miscommunication between Holliday and Kozma, and yes, the crowd probably played a role. They seemed uncertain who was actually calling for the ball.

But in 54 years of covering Major League Baseball, I’ve never seen the fly rule called when a fielder isn’t under the ball. The infield fly is a complicated rule, designed to prevent infielders from intentionally dropping a popup with more than one runner on base to perhaps get an extra out.

It wasn’t even close in this case. As Holliday charged in, Kozma, his glove outstretched, took a few steps back, deeper into the outfield.

一方で、元審判部長はすぐさまこのコールは正しいものだと表明し、試合後、ホルブルックは「再考の余地なし(no second guess)」と言い切りました。

オールスターとプレイオフ以外では線審が付かないメジャーリーグの試合において、レフトとライトの線審は慣れない位置からのジャッジを行うことになります。この試合はプレイオフにおいてビデオリプレイの使用範囲を拡大へと動かすきっかけになることでしょう。しかしその場合には4人審判の下で行うべきという意見も出ています。



どれだけ監督があの場で抗議をしても、ブレーブスが試合後に抗議をしても、この判断は覆ることはありませんでした。ブレーブスは中断後に2アウト満塁の機会を得ますが、結局無得点で終わりました。ブレーブスは試合の流れを変えるきっかけを失いました。また、神も運さえも、試合のモメンタムを奪われた、あるいはそれを相手に与える形となってしまったブレーブスに対して味方にはなりませんでした。

そして9回裏2アウト、チッパー・ジョーンズは3人目の打者として現役最後の打席を迎えました。


最後の打席に立つチッパー・ジョーンズ

これで試合が終わるだけでなく、ジョーンズの現役そのものが終わることは多くの人が悟らざるを得ない状況でした。しかし、ジョーンズはセカンドゴロと思われた当たりで、しぶとく内野安打で出塁をしました。その後ヒットでジョーンズは長年守ってきた3塁まで進みましたが、何度も駆け込んできたホームベースを踏むことはなく、試合は終了しました。

試合後ジョーンズはあの8回裏のプレイが全てだったのではなく、それまでのミスが試合を決めたのだと考えるべきと、特に自らのエラーや攻撃での貢献の無さを含めて語っています。確かにあの8回裏の判断は、ブレーブスに動き始めた試合の流れを止めました。しかし、それまでの試合の中での一瞬一瞬の積み重ねがあのような場面を作らざるを得なかったのであり、その結果としてのフライボールだったのかもしれません。でも、このようなことを言えるのは、19年間多くの悔しさを味わってきたジョーンズだからこそだと思いますし、これを教訓にしてほしいというブレーブスの若い選手に向けた言葉のように感じます。

“Ultimately when we look back at this loss, we need to look in the mirror. That [infield fly] call is in kind of a gray area. I’m not willing to say that call caught us the ball game. Three errors cost us the ball game, mine being the biggest.

It just seems that play turned everything around, and that’s what I’m most disappointed in, Walking out of my last game, I certainly didn’t want to go [1 for 5] and make a play that losses a season. But that’s something I’ll have to deal with in the days to come.”

昨年ブレーブスは9月下旬の失速により、162試合目にしてプレイオフの枠をカーディナルスに奪われました。今年、ブレーブスは163試合目とも言える直接対決でカーディナルスの前に敗れ去りました。この試合はジョーンズの、そしてブレーブスの望まない形での結果となりました。同時に、昨年のブレーブスやレッドソックスの敗退を見て、すぐさま鳴り物入りで新制度を導入したメジャーリーグにとっても、その初戦は最も望まない形で注目を浴びるものになりました。